このように、ツァルナエフ兄弟とその家族はチェチェン人でありながら、各地を転々として生きてきた。また、米国にはチェチェン人が少なく、チェチェンコミュニティのようなものもないため、兄弟がアイデンティティ・クライシスに陥り、その心の隙間を埋めたのがイスラームだったのではないかと指摘する専門家が多い。
ツァルナエフ兄弟の肖像
実際、兄は「アメリカの友人は一人もいない。彼らのことは理解できない」と知人に話したり、SNSに書き込んだりしていたようだ。
しかし、彼らを知る者たちは、彼らは普通のアメリカ人に見えたと言うし、移民としては大変上手く適合できたケースだと考えられていた。
何故なら兄のタメルラン容疑者は、アメリカでボクシングに打ち込み、2004年には地元のアマチュア大会で優勝し、将来は米国代表としてオリンピックに出場する夢を持っていた。だが、技師を目指してボストンのバンカーヒル・コミュニティカレッジに通ったものの中退し、09年には暴力行為で逮捕されるなど歯車が狂い始めた。
実は、この頃から、イスラームへの傾倒が強まっていたと思われる。その背景には、母親が、息子が米国で麻薬、女遊び、飲酒などの悪習に染まることを危惧し、イスラームの信仰を強めることを働きかけたことが背景にあるとも報じられている。それにより、兄は飲酒や喫煙はもちろん、生き甲斐だったはずのボクシングもイスラームの教えに反するとしてやめたという。また、親族はタメルラン容疑者が2008~09年頃にモスクで知り合ったとみられる年上のアルメニア系の友人「ミーシャ」に「洗脳された」とも主張する。ミーシャは深夜まで熱弁をふるってイスラームについて語り、タメルラン容疑者にボクシングのみならず、作曲が好きで音楽学校を開く夢も語っていた音楽をもやめさせたという。
そして、その頃、アメリカ人女性との間に子供ができ、結婚もしている。このアメリカ人女性は、キャサリン・ラッセルさん(24歳)で、医師の父と看護師の母を持ち、高校ではダンスチームと芸術部で活躍し、発展途上国の援助のためにボランティアを派遣する米国の団体ピース・コープでボランティア活動をする夢を持ち、サフォーク大学に進学した。
だが、そこでタメルラン容疑者と出会い、歯車が狂ってしまったようだ。娘(ザハラちゃん。現在3歳)を妊娠したため、大学を中退する一方、タメルラン容疑者の影響で、イスラームに改宗し、名前も「カリマ」に改名、常にヒジャブを身にまとう生活を始めるようになった。
彼女の周囲の人々は、彼女はタメルラン容疑者に会って、すっかり変わってしまったと大きな衝撃を受けていたようだ。なお、彼女は週に70-80時間働き、タメルラン容疑者が娘の育児を行っていたとのことで、テロ計画については全く知らなかったという。