茅葺の家は、雨漏りがひどくて、改修には2年を要した。友治さんは、テレビを置いていない。集落にはもともと、携帯の電波が届かない。
2021年春――。全国的に新型コロナの感染が拡大していたが、友治さん一家の暮らしは変わらない。「苗とり」という苗の選定作業、沢から田に水を引くパイプの整備など、一家で取り組む。
妻の郁代さんが、友治さんと知り合ったのは、彼が移住してきたことを報じた新聞記事がきっかけだった。
「母が新聞を見て『あんたと似たような人が来たね』と言ったんです。それで、会いにきました。こんなところもあるんだ、楽しそうと思って。父母も『あんたたち結婚したら』っていってくれて」
農家に生まれた、郁代さんにとって、ここは理想的な場所だった。
「無農薬で農業をやりたいって考えると、虫が逆に寄ってくるんですよ。米は1年食べる分だけ。1人の理想は、2人の理想」
子どもの成長とともに変わる生活
長男の日々貴さんが、足がはえたオタマジャクシをつかまえて「胃の中が見える」という。家族で作業した後は、近くの川で泥を落とす。
21年夏――。小学校1年生の日々貴さんは、スクールバスで15分ほどの学校に通っている。子どもが成長することによって、夫婦の理想の形も変化していこうとしている。
郁代さん 「子どもが何か習い事をしたいといっても、お金の面でどうしようかと」
友治さんは、草刈などのアルバイトをするようになった。
友治さん 「お金がないと、暮らしが回っていかない現実もあったりして。週5日とか稼ごうとする暮らしだったら、もっと便利なところに家を建てて、茅葺とかで暮らすこともあんまりないんだが」
田に蛍が舞う。兄と妹は蛍をとらえて、またそっと空中に飛ばす。
21年秋――。郁代さんと日々貴さん、長女のみなさんの3人は野菜の種取りに励んでいる。季節の変わり目の家族の恒例の作業である。郁代さんが語る。
「伝統の野菜なら、永遠に条件が合えば育ち続ける。命の循環が完成できるんじゃないかと。子どもたちも、やったなっていう記憶が残る。からだで覚えてくれていたら、自分が大きくなったときにやるかな?」
稲刈り。家族全員が鎌を手にして刈り取っていく。最後は、バインダーを使って大きな面積を刈り取る。新米をかまどで炊いて、家族で食べる。焦げ目がうまくできている。