本論文は、北朝鮮に対し、単純化して言えば、制裁を含む「北風」のアプローチをとるか、対話を重視する「南風」のアプローチをとるかの選択において、「南風」のアプローチをとることを提案するものです。中でも、北朝鮮の非核化に主たる関心が向けられていることに対し、人権を中心に据えた対応に切り換えるべきである、と主張します。
しかし、このようなアプローチは、現今の危機に対応するには、いかにも迂遠であり、現実の危機回避には役立たないと思われます。北朝鮮問題に対応するには、北風と南風の両方を駆使して取り組まなければ、今後とも、これまでの繰り返しに終わってしまう危険性があります。
本論文は、ソ連を崩壊に導いた主な要因を、CSCE(全欧安保協力会議)の緊張緩和政策に帰していますが、これはやや単純すぎる論法です。
また、北朝鮮のエリートたちに影響を及ぼすような人権政策に言及していますが、今日の抑圧された北朝鮮において、そのような開かれた情報が彼らに届くのか、という基本的問題があります。
ソ連崩壊の場合と異なり、北朝鮮の場合には、中国の存在という決定的相違点がありますが、本論文はそのことについては触れていません。
中国にとっての北朝鮮の重要性は、まず、地理的に米・韓との間のバッファーとしての重要性であり、更には、北朝鮮の体制維持が中国の体制維持にも大きく関わっているという点でしょう。中国から見れば、半島の「非核化」について、中国の思い通りにならない北朝鮮に対し、不満はあるでしょう。にもかかわらず、中国にとっては、北朝鮮の体制が崩壊せず、維持され続けることが、中国の体制維持からも望ましいと考えているに違いありません。それが、中国指導部の言う「自分たちの玄関先で混乱が起こることは容認しがたい」という発言になっているのでしょう。
本論文は、韓国大統領の「東北アジア平和協力イニシアチブ」に言及した際、中国、米国、ロシアを特記していますが、日本については触れていません。それほど深い意味をもつものとも思えませんが、気にかかる点ではあります。
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