2024年7月16日(火)

勝負の分かれ目

2022年9月29日

 拳を交えた朝倉に関して「彼には誇りに思う。お客さんを盛り上げることに貢献してくれた。人々が求められていることができた。そして2人とも楽しめた」と評していることからも、メイウェザーの胸の内では明らかにエンタメ性が強い試合だったことを伺わせる。

魅せるファイトでの「全力」

 100%の実力は発揮しなくても、絶対に勝てる。そういう自負があるからこそメイウェザーは相手の良さも引き出した上で、最後に「客を満足させる結果」へ導くことができるのだろう。

 かつてプロレスラーのアントニオ猪木がプロレスのリングで「受けの美学」や「風車の理論」を説きながら数々の名勝負を生み出したが、もしかするとメイウェザーとTMT(ザ・マネー・チーム=チームメイウェザー)の「エキシビションマッチ」に対する解釈も、それに近い考えなのかもしれない。

 メイウェザーは総合格闘家でUFC2階級制覇王者のコナー・マクレガーと17年8月にスーパーウェルター級12回戦で相まみえ、10ラウンドTKO勝利。それを区切りに3度目の現役引退を宣言して以降、日本以外でもYouTuberらを相手に「エキシビションマッチ」を幾度となく行っている。次戦のエキシビションも朝倉戦終了から48時間も経過しないうちに、11月13日にドバイ(UAE)で英国人人気YouTuberのデジと対戦することが主催者側から発表された。

 現役を退き、こうしたエキシビションのリングに上がる今のメイウェザーは本人も明言している通り、確かに「リアルファイト」とは言い切れないかもしれない。しかしながら自らをサポートするTMTとともに「エキシビションマッチ」という新たなジャンルに真剣に取り組みつつ、世界中のファンを熱狂させようと各国を奔走していることは疑いようがない。

 現役時代から「ザ・マネー」の異名を持ち、その言動によってヒールのイメージを以前と変わらず存分に発揮している。このような姿もエキシビションマッチを盛り上げるための一環として全て計算されたパフォーマンスととらえれば、メイウェザーはやはり超一流であり、プロフェッショナルなのであろう。 

 また、試合前のセレモニーでは花束贈呈役の相手から手渡されるはずだった花束を目の前で投げ捨てられながらも、ブチ切れることなく拾い上げた紳士的な対応に称賛の声が集まっている。余談だが、未だに日本中を大きく騒がせている「花束騒動」でもメイウェザーは株を大きく上げたようだ。

世界王者に教えを請いボクシング初挑戦

 一方の朝倉はどうか。エキシビションマッチとはいえ、MMA(総合格闘技)の選手でありながら初めてのボクシングマッチに挑戦。超一流ボクサーのメイウェザーを相手に健闘を見せるも最後はキャンバスに崩れ落ちた。

 朝倉は本気でメイウェザーに一泡吹かせ、あわよくば倒そうと猛練習を積み上げてきた。だからこそMMAのメニューではなくボクシングの練習に取り組み、メイウェザーのかつてのライバルであるボクシング元6階級制覇王者のマニー・パッキャオ氏からフィリピンで直接指導を受けたり、元WBAスーパーフェザー級スーパー王者の内山高志氏に助言をもらったりするなど、メイウェザー攻略のヒントにつながる可能性があれば藁にもすがる思いで飛びついた。

 エキシビションマッチ決定から試合まで、たった2カ月程度しか練習期間が作れないタイトなスケジューリングの中、よくここまで未体験のはずのボクシングメニューに没頭し、自らを追い込んでコンディションを上げることができたなと驚嘆させられる。


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