メイウェザーが9月18日の夜に来日し、一行とともに東京の夜で連日豪遊しているニュースを耳にしても全く動じることはなかった。相手をなめているかのような態度をとられても「皆が負けると思っていたほうが気が楽ですよ」と泰然自若を貫いた。ハッタリ覚悟で「俺の方がパンチ力は強いですから」とまで言い放ち、自らを奮い立たせて決戦のリングに臨んでいた。
しかし、現実は厳しい結果に終わった。とはいえ、あのメイウェザーを「驚かせる」ことはできたのではないだろうか。エキシビションで余裕をぶっこいていた相手に2ラウンド、伸びのある右を顔面にヒットさせ〝もしかしたら〟という世紀の番狂わせの期待も一瞬だけだが高めた。
試合後の朝倉は「最後の(フィニッシュブロー)以外は一個も効いていなくて」と強がったものの「最後のは記憶ない。気が緩んだのかな。あそこでまた来ると思わなくて。人生で初めてKOされたんだけど、他の人の試合を見て、なんで立たないのって思ってたけれど、その感じがやっとわかった。平衡感覚がなくなるというか、耳が散った、完全に破れているよ」などと振り返った。
そしてメイウェザーに対しては「本当に強かったし、いい経験が出来ました」と事実上の完敗を認め、エキシビションに関しても「やってよかったと思う」と満足げだった。
〝2度目の完敗〟を経てどこに進むか
MMAの試合ではプロ戦績で20試合のうち、黒星は3つ。そのうち判定負けは2戦、そしてもう1つ〝唯一〟の衝撃的な敗戦となったのが「RIZIN 28」(2021年6月13日・東京ドーム)のメインイベントでクレベル・コイケに三角締めで締め落とされ、初の失神一本負けを喫した試合だ。朝倉にとってメイウェザー戦は、このコイケ戦での屈辱の敗北に次いでプロ生活2度目となる「相手との力量差」を感じる貴重な体験の場となったに違いない。
実を言えば、これまでも朝倉は「負けたい」という言葉を幾度となく口にしてきた。相手に叩きのめされ、自身の鼻っ柱を折られることで、そこから死に物狂いになって再び這い上がれば以前にも増して強くなると踏んでいるからである。
朝倉はこうも言った。
「ボクシングを練習することでMMAが強くなった。MMAを早くやりたくてしょうがない」
クレベル戦で生涯初めてショッキングな負け方に直面した時は、引退までほのめかすほどにメンタルまでズタズタになりドン底を味わった。しかしながらメイウェザーの前に〝2度目の完敗〟を喫した今回は違う。「負け」を知った朝倉は明らかに心技体の全ての面で成長し、格段に強くなっている。
あらゆる面において対照的だった朝倉、そしてメイウェザーの「次のステージ」に注目したい。