そもそも、日本政府観光局(JNTO)によれば、新型コロナ流行前の19年に日本を訪れた外国人3188.2万人のうち、観光目的は2825.7万人で全体の9割弱、88.6%だった。19年で見れば、全訪日外国人の64.3%が個人旅行客という計算になる。
そのうち、旅行会社等が企画した団体ツアーへの参加及び個人旅行パッケージの利用客は、観光庁「訪日外国人消費動向調査」によれば27.5%に過ぎず、残りの72.6%(四捨五入の関係で内訳の合計が総数に合っていない)は旅行会社等を通さない個人旅行だ。
つまり、先の2825.7万人に72.6%をかけて得られる2051.5万人が個人旅行で、ツアー客は774.2万人でしかない。これまでは外国人の入国規制を緩和したとは言っても、名ばかりでしかなかったのは明らかで、いままで訪日外国人の6割を占める個人旅行客を敢えて締め出しておきながら、相変わらず岸田首相の決断は遅きに失していると評価せざるを得ない。
インバウンド全面解禁の経済効果
悪い円安論や円安による輸入インフレなどの弊害も数多く指摘されてはいるが、「それでも政府・日銀が金利を引き上げない理由」でも指摘した通り、当分、政府・日銀の金融政策のスタンスに変更がないと言える。であれば、できる限り円安のメリットを活かす方策を考えた方が建設的というものだ。
インバウンドの解禁にとっては、今年2月以降急激に進み、足元でも一段の円安が進んでいることも追い風になるに違いない。日本と欧米の金利差の拡大は今後しばらく続く見込みなので、円安はさらに進行するだろう。
円安は日本人にとっては購買力の喪失に他ならないが、日本を訪れる外国人にとっては購買力の強化であり、割安に日本を楽しむ格好の機会になる。インバウンド政策推進の中心だった菅義偉前首相も指摘する通り「かつての3200万人のインバウンド」を活用しない手はないだろう。
では、現在の状況下でインバウンドを全面解禁したとしたら、どの程度の効果が見込まれるのだろうか。
いま、インバウンド消費額を為替レート、原油価格、世界所得等により回帰分析した結果に、円ドルレートが1ドル=140円にまで円安が進行したと仮定して推計したところ、今後1年のインバウンド消費額は過去最高の6.8兆円となる。機械的に計算すれば10月から年内に限ってもインバウンドの経済効果は1.7兆円と推計される。
さらに、1ドル=140円のもとでは、訪日外国人の消費単価は20.2万円となる。外国人に門戸を完全に開放した場合、1年間を通してみれば、訪日外国人旅行者数は過去最高の3400万人に達する見込みだ。
つまり、二十数年ぶりの円安水準が追い風となって、原油高はややマイナス要因ではあるものの、それでも6.8兆円(10〜12月では1.7兆円)もの需要が観光関連業界に創出されることになる。コロナ前の19年のインバウンド消費額4.8兆円と比べても2兆円売り上げが増えるわけなので、観光関連業界は空前絶後の活況を呈するだろう。