ウクライナ軍側はロシア軍侵攻開始当初、きわめて手薄だった防空体制を突いて多方面から飛来してきたロシア軍機による爆撃、一斉掃射に苦しめられてきた。このため、ゼレンスキー大統領はNATOに対し、同国上空の「飛行禁止区域」設営により、領空侵犯したロシア軍機のNATO軍による撃退を可能とする計画を一時打診したほどだった。
しかし、その後は、首都ワシントンのホワイトハウス対空防衛用にも使用されているといわれるこの「NASAM」大量配備により、ウクライナイ軍はほぼ正確にロシア軍機撃墜に成功しており、その分、ウクライナ軍地上部隊の進軍を側面支援するかたちとなっている。
このほか、米軍は機動性に優れた偵察型ドローン1000機以上をウクライナ軍に提供、各前線に配備された結果、ロシア軍の装甲車や戦車の動きを早期察知、反撃体制に備えるなど、反転攻勢に大きく寄与してきたことも伝えられている。
ただ、今後の戦況は決して楽観は許されない。プーチン大統領は20万人の兵力増員を決定したほか、ウクライナ南部、東部のロシア系住民が多いとされる4州を違法併合したのを契機に、いったん撤退したのちも再び反撃に出てくることが十分予想される。
このため、米軍を中心とするNATO側としても、手を抜くことなく引き続き長期にわたり強力な対ウクライナ支援を継続することが不可欠だ。
「アメリカ第一主義」を保持し続けるトランプ派
ところが、中間選挙結果を踏まえ来年1月3日に召集される新たな連邦議会が、果たしてこれまでのようなウクライナに対する大判振る舞いを認めるかどうか、極めて微妙な段階を迎えつつある。
そのカギを握るのが、下院におけるトランプ派の不気味な動きだ。
ケビン・マッカーシー共和党院内総務ら139人にも上る同党議員はこれまでにも、2020年大統領選挙結果について、トランプ氏の主張に沿って「不正があった」として否認したまま今日に至っており、バイデン政権にとっても厄介な存在となっている。
さらに中間選挙では、欠員となる議席獲得めざし立候補した新人16人のほか、再選めざす現職候補90人近くがトランプ氏の個人的推薦を受けている。勝率8割にも達したといわれるトランプ支持候補の予備選結果から判断しても、本選でもトランプ支持候補の当選がかなりの人数に上ると見込まれている。
このため、バイデン政権内部では、これまでのトランプ氏自身の発言などを踏まえ、来年以降のウクライナ援助の見通しについて、悲観的見方も出始めている。
トランプ氏は去る5月、米議会で400億ドルの対ウクライナ支援法案が成立した際、「民主党の連中は、わが国の父母たちが自分たちの子供らを何とか食べさせようと四苦八苦しているときに、ウクライナに400億ドルもの追加支援を行った」などと批判した。
同氏は、大統領在任中の去る19年にも、対ウクライナ軍事援助を凍結しようとしたこともあり、「アメリカ第一主義」の主張は一貫したまま今日に至っている。
こうしたトランプ氏の意を受けて議会でも、多くのトランプ支持議員たちの間から、際限ないウクライナ支援に対する不満が渦巻いてきている。そのうちの一人、チップ・ロイ下院議員(共和、テキサス州)は、「今議会は、『大砲かバターか』のまじめな議論をすることなく、ただウクライナのためにドルを垂れ流している。しかし、今後は断固阻止していく」との厳しいコメントを発表している。
また、全米のトランプ支持者の間で圧倒的人気を得ているFox Newsキャスター、タッカー・カールソン氏も「ウクライナがロシア領になったとしても、わが国とは無関係」と発言しており、国内保守層の間で、〝ウクライナ疲れ〟が出始めていることは否定できない。
しかし、もし今後、対ウクライナ支援で主導的役割を担ってきた米国が、その規模の縮小を余儀なくされることになれば、他のNATO諸国も追随する可能性は否定できず、その場合、ウクライナは、現在より苦しい局面に立たされることが懸念されよう。