今回のテーマは「バイデン―米中間選挙をかく戦う」である。中間選挙の投開票日まで60日になり、与党民主党を率いるジョー・バイデン米大統領は、野党共和党に対して反撃に出ている。9月1日、米国独立宣言が行われた東部ペンシルべニア州フィラデルフィアの独立記念館で、「米国の魂」と題した演説を行った。
さらに、バイデン大統領は同月5日の「労働者の日(レイバーデー)」、中西部ウィスコンシン州と、上院選及び知事選の鍵を握るペンシルべニア州を再度訪問し、「労働組合が中間層を作った」と強調した。一体バイデン氏は、どのような戦略で、この中間選挙を乗り切ろうとしているのか――。
「MAGA共和党」
バイデン副大統領(当時)は19年、フィラデルフィアで20年米大統領選挙の出馬宣言を行った。その際、分断された米国社会における「融和」に訴えて、米国民を束ねることができる大統領として自身を描いた。
大統領就任後も、バイデン氏は米国民の結束を重視し、ドナルド・トランプ前大統領と支持者に対する直接的な批判を控えてきた。ところが、9月1日のフィラデルフィアでの演説を聞くと、大きく方針を転換したことが分かる。明らかに、融和の中身に変化が生じているのだ。
この演説で、バイデン大統領は「MAGA共和党」という言葉を10回も用いて、「MAGA共和党の過激主義が民主主義を破壊する」と強い警告を発した。トランプ前大統領はMAGA(マガ:Make America Great Again:米国を再び偉大にする)をスローガンではなく、トランプ支持者による運動(ムーブメント)と呼んでいる。
「一人(トランプ氏)のリーダーに対する盲目の忠誠心と政治的な暴力に対する関与が民主主義を致命的にする」と、バイデン氏は断言した。また、「民主党支持者、無党派層と共和党本流は、米国の民主主義を救う決意をしなければならない」と差し迫った。
「新たな融和」とは
バイデン大統領は同演説で、民主党支持者、無党派層と共和党保守本流による「新たな融和」を示唆した。政治的な暴力を肯定するMAGA共和党は、融和の中に含まれていない。加えて看過できない点は、バイデン氏が、無党派層が拒絶反応を引き起こすMAGAという言葉を、意図的に繰り返し使用して、彼等を引き寄せようとしていることである。
バイデン氏のMAGA共和党へのこの攻撃を批判的に見ているのが、米紙ニューヨーク・タイムズの保守派コラムニストデイビッド・ブルックス氏である。ブルックス氏は米公共放送(PBS)で、20年米大統領選挙においてトランプ氏に一票を投じた30%の有権者は、次の選挙で同氏に投票しない可能性があると指摘した。その上で、彼等がトランプ支持に戻らないようにすることが重要であると語った。
ブルックス氏は、バイデン大統領のMAGA共和党という言葉を用いた攻撃は、30%の有権者をトランプ回帰にしてしまう可能性があり、その意味で危険な戦略であると言うのだ。
ただ、バイデン大統領はトランプ支持者に対して一定の配慮をした言い方をしているのも事実である。ホワイトハウスの記者団が、「全てのトランプ支持者が米国に対する脅威だと考えているのか」と尋ねたところ、バイデン氏は即座に否定し、「暴力に訴える人。暴力を非難しない人。選挙の敗北を認めない人。ルールを変えるように主張する人が、米国に対する脅威だ」と答えた。バイデン氏は、30%の有権者と政治的な暴力を否定しない有権者を区別して、前者に対して「あなたたちは米国の脅威ではない」というメッセージを送ったのである。