今回のテーマは「トランプの3つの『頭痛の種』—米司法省、チェイニー、無党派層」である。2024年米大統領選挙出馬に強い意欲を示しているドナルド・トランプ前大統領にとって、米司法省が大きな障害になっている。また、8月16日に投開票された西部ワイオミング州共和党予備選挙で敗れたリズ・チェイニー下院議員が、トランプ氏再選を阻止する行動を起こす宣言をした点も、同氏にとって懸念材料だ。
さらに、トランプ前大統領は米連邦捜査局(FBI)による家宅捜索を利用して、支持者を怒らせ、票に結びつける戦略をとっているが、勝敗の鍵を握る無党派層から支持を得ていない。本稿では、「トランプ氏と米司法省との攻防」「チェイニー氏の新たな一手」並びに「無党派層の動向」について述べる。
宣誓記述書を巡る戦い
トランプ前大統領は、FBIが捜査令状(search warrant)をとるために使用した宣誓供述書(affidavit)の開示を求めた。しかも、開示すべきではないと判断した箇所を黒塗りせずに、全てを開示するように主張した。一体、トランプ氏の狙いはどこにあるのか。
宣誓供述書には、FBIがヒアリングをした人物の名前が証人として明記されているといわれている。トランプ氏は証言を行った人物の情報を得て、この人物を攻撃することによって信頼性を下げる戦略に出る。同氏の常套手段だ。最終的な狙いは、FBIの捜査の妥当性に疑問を持たせることである。
南部フロリダ州のブルース・ラインハート連邦判事は、25日正午までに宣誓供述書のどの箇所を非開示にするのか、政府に要求した。これに対して米司法省は、「宣誓供述書の開示は捜査を危うくする」と反論している。
第1に、証人の安全性について懸念があるからだ。トランプ支持者はFBI捜査員および司法省職員に加えて、おそらく証人に対しても暴力に出るだろう。第2に、宣誓供述書の内容を全て開示すれば、他の証人もFBIの捜査に非協力的になる可能性が高まる。第3に、編集せずに宣誓供述書を開示すれば、捜査段階を明かしてしまうことに成りかねない。
従って、米司法省が提出する宣誓供述書は、黒塗りがされた中味のないものになるかもしれない。
反トランプ運動の「のろし」
反トランプの急先鋒チェイニー下院議員は共和党予備選挙で、トランプ氏が送った「刺客候補」に37ポイント差で敗れた。しかし、チェイニー氏は敗北宣言の中で、21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件並びにFBIによる家宅捜索に言及し、トランプ氏との戦いを続ける決意を示した。
その第一歩として、チェイニー氏は政治活動委員会「偉大な任務(The Great Task)」を立ち上げた。「偉大な任務」は、第16代大統領エイブラハム・リンカーン氏(共和党)が1863年、南北戦争の際にゲティスバーグで行った演説に由来する。リンカーン氏は、「血なまぐさくて、外観上終わりのない戦争から米国を救う任務」と述べた。
チェイニー下院議員は「民主主義のシステムを攻撃するトランプ氏から米国を救済する」という意味を込めて、自身の政治活動委員会を「偉大な任務」と名付けた。チェイニー氏は、この政治活動委員会をテコにして政治資金を集め、24年大統領選挙に出馬するのではないかと見られている。同氏は反トランプ運動の「のろし」を上げたのだ(図表)。