「イエス」と「状況」の意味
ところが、ホワイトハウスの記者団が「米大統領が機密情報や最高機密情報を自宅に持ち帰るのは適切か」とバイデン大統領に聞くと、同大統領は即座に反応し、「イエス」と答え、「状況に拠る」と加えた。バイデン氏は「イエス」と「状況」に、どのような意味を込めたのだろうか。
バイデン氏が「イエス」と回答したのは、自身が地元の東部デラウェア州の自宅に、機密情報を持ち帰っているからだろう。自宅のオフィスは、機密情報を扱える安全な場所に指定されているからである。
一方、大量の機密情報が見つかったトランプ氏の私邸「マーラ・ア・ラーゴ」にある「45オフィス」は、もはや機密情報を扱える場所として認可されていない。現職大統領のバイデン氏と民間人のトランプ氏では、「状況」や「環境」が全く異なっているのである。
2020年米大統領選挙で自身を「法と秩序」の大統領と呼んだトランプ前大統領に対して、バイデン氏は自分こそが「法とルール」に基づいて行動する大統領であるというメッセージを発信したのである。
バイデンの政治的計算
当初の予想に反して、民主党は共和党に対して上院で多数派を維持する可能性が出てきた。一方、下院では民主党惨敗の公算は低いとまで言われるようになった。仮に下院民主党が過半数の218議席に届かなくても、200議席以上をとれば、下院共和党の圧勝とは言えないだろう。
米紙ワシントン・ポストのベテラン記者ダン・バルツ氏は、今回の中間選挙で民主党は「過去の規範」を打ち破るかもしれないと述べている。バルツ氏は、中間選挙で歴史的に与党が大敗するという見方は、当てはまらないのではないかと、疑問を投げかけている。その理由に、トランプ前大統領に焦点が当たっていることを挙げた。
バイデン大統領は中間選挙で、米国民の目が物価高騰からトランプ前大統領に移れば、民主党に有利に働くという政治的計算をしているフシがある。今後、バイデン氏は共和党保守本流とMAGA共和党を明確に区別しながら、トランプ氏とMAGA共和党への攻撃を一層強め、米国民の関心を「米国ないし民主主義に対する脅威」にシフトさせていくだろう。