2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年10月19日

 この法令が金正恩から部下に核兵器に関する権限を委譲するものかどうかは明確ではないが、「自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」ためには、このエコノミスト誌の解説記事が指摘するように核兵器に関する権限の委譲が必要なように思われる。そしてそれは人間的、技術的エラーによる核戦争の開始の可能性も高めるだろう。

日本を取り巻く国際戦略環境は悪化するばかり

 金正恩は「核兵器政策の法制化により、(北朝鮮の)核保有国としての地位が不可逆的になった」と演説で述べた。松野博一官房長官は「北朝鮮の完全な非核化に向け、日米や日米韓で緊密に連携していく」と述べたが、完全な非核化は当面達成できない目標であると思われる。願望の表明は政策にはならないことを踏まえ、対北朝鮮政策を今一度日米韓3カ国でレビューする必要があるのではないか。

 特に北朝鮮の首脳を標的にする「kill chain」計画を声高に話すことにはあまりメリットがないと思われる。核兵器の使用については、米国は permissive action link というものを開発してきた。これは要するに大統領が特定の暗号を特定の器具に入力しないと米国の核兵器は起爆しないというものである。

 北朝鮮も類似の技術を開発し、持っていると思うが、その詳細は分からない。今度の法令についても、慎重に対応すべきであり、より詳細かつ正確な情報を日本として確保、分析し、対処の方針、政策を立てる必要がある。

 最近、特に本年(2022年)の北朝鮮のミサイル発射の頻度と、その性能向上の現実に鑑みると、核保有国としての北朝鮮の動向は、相当危険な方向にあり、日本を取り巻く国際戦略環境は、悪化するばかりであり、改善していない。日本政府の対北朝鮮政策の方針は、「核、ミサイル、拉致」問題の包括的解決であるが、北朝鮮からのミサイル発射の状況を見るだけでも、包括的解決が遠のいているように感じられる。

 日本政府が凍結させたイージス・アショアの代替案を、日本政府から米国に提案することも含め、日本自ら日米同盟を強化し、独自の防衛を強化する具体策を実行して行かなければ、現在の国際戦略状況が改善することは難しいだろう。

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