地域と企業の共助が創る
再エネ主力電源の時代
「GENESIS松島」と命名された計画はすでに動き出し、昨年4月に環境影響評価の準備に入った。ゼロカーボンシティを標榜する西海市はこの発表に際し、次のコメントを発信している。
——「起源」を意味する「GENESIS」の言葉どおり、西海市が日本の脱炭素社会のまさに「起源の地」となりますよう、全力を挙げて取り組む覚悟です——
振り返れば島と発電所は共生の関係にあり、建設当初は地元人財の優先雇用に、診療所や桜並木といった住環境整備で信頼を築いた。今は発電所を挙げて参戦する和船競漕の大イベント「大瀬戸ペーロン大会」が、地元との強い絆を表す象徴となっている。
Jパワーは西海市沖での洋上風力発電事業に関する調査・検討も進めており、再生可能エネルギーが結ぶ両者の関係も今後深まっていくに違いない。2026年度に運転開始が予定される新生・松島火力には、自然条件に左右されて出力が変動しやすい再エネの弱点を補完する役目もあるという。
「新しいガスタービンを柔軟に運用し、今よりも高い出力調整機能を持つことができます。再エネ時代の需給バランス調整にも貢献してくれるでしょう」(椎屋所長)
カーボンニュートラルと
水素社会の到来に向けて
Jパワーが描く近未来構想は、松島火力アップサイクルだけに終わらない。その実践値を他の発電所にも生かすほか、カーボンニュートラルの本丸に斬り込む挑戦も始まっている。中村氏は言う。
「石炭ガス化で生成されるガスから取り出した水素を使ってタービンを回す、水素発電が可能になります。水素は燃やしても蒸気が出るだけでCO2は排出しません。また、この水素を燃料電池に使い、ガスタービン、蒸気タービンと組み合わせるトリプル型の発電方式も検討中で、いずれも大崎クールジェンでの実証段階です」
水素(H2)と一酸化炭素(CO)から成る石炭ガスに水(H2O)を加え、出てきたCO2を分離・回収して水素だけを残すという原理。この技術はすでに確立段階にあり、Jパワーを含む技術研究組合HySTRAが豪州で進めてきた褐炭水素実証プロジェクトが、純度99・999%の水素製造に成功。カーレースに参戦する水素エンジン搭載車への供給といった成果も挙げた。水素は再エネを使った水の電気分解からも生成可能で、CO2フリー水素の多様な製造方法が拓かれつつある。
残る課題はCO2の分離・回収だが、この技術も大崎クールジェンで実証済み。回収したCO2を地中深くに貯留(CCS)、または有効利用(CCU)する研究開発が進行中だ。大崎では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるカーボンリサイクル実証研究拠点が本格稼働を始め、Jパワーもこれに協力する。Jパワーはまた、CO2をトマト栽培に生かす試験も進めている。
これらの技術が商用化し、石炭ガス化と組み合わされれば、石炭由来でありながら一切のCO2を大気に放出しない、ゼロエミッションの火力発電所が出現する。そればかりか、バイオマス燃料は大気中のCO2を吸収して育った植物からつくるため、このガスから回収したCO2を貯留または利用すれば、大気中のCO2を実質的にマイナスとする「ネガティブエミッション」が成立する。
「混合ガス化は石炭とバイオマスがともに固体だから実現するのであり、この技術のアドバンテージだと思っています」(中村氏)
こうした取り組みのすべてを含む構想が、Jパワーが中期経営計画に示す「GENESISビジョン」の全体像だ。そこには、1952年に電力安定供給の命を受けて誕生したJパワー70年の軌跡が育む総合力が詰まっている。
松島を起点に世界へまた、新しい石炭利用のバリューチェーンが広がろうとしている。