2024年4月27日(土)

J-POWER(電源開発)

2022年10月20日

PR
捕鯨、炭鉱、電力と、時代とともに役割を変えて活路を開き続けた小さな島。長崎・松島が起点となって今、世界を見据えた日本の挑戦が始まった。Jパワー(電源開発)松島火力発電所の軌跡と新たな使命を軸に、2050年カーボンニュートラル実現を目指すプロジェクトの実像を追う。
 

炭鉱の島から電力の島へ
小さな町の大きな挑戦

 市営船に揺られてほんの10分。かつては鯨も行き交ったという水道を渡り、小さな島へ。西方に広がる五島灘と遙かな島影。その右に霞むのは平戸島の突端だろうか。

 日本一を数える長崎県の島々の一つ、松島(西海市大瀬戸町)。松林が茂り、大海原や桜並木の絶景も目に染みるのどかな土地だが、江戸の昔は捕鯨で栄え、大正から昭和の初めには炭鉱で賑わった。そんな離れ小島に約40年前、世界のエネルギー政策に影響を与えた発電所があると聞いて訪れた。

 Jパワー松島火力発電所の運転開始は1981年。日本で初めて、海外から輸入した石炭を使う大規模発電設備として誕生した。70年代に世界を襲った二度のオイルショックを経て、高騰を続ける石油価格とエネルギー安定供給への不安に社会が揺れる中、海外炭の活用は資源小国日本のゆくえに一筋の光をもたらす打開策だった。椎屋光昭所長はこう話す。

 「日本は50年代半ばからの高度経済成長期に、エネルギー源の大部分を石油に依存していました。第1次石油危機の起こった73年当時、総発電量の7割以上が石油によるものだったと聞いています。その輸入が突如として阻まれ、エネルギー源の多様化が喫緊の課題となる中で、役目を終えたと思われていた石炭が見直されたのです」

 1973年10月、第4次中東戦争に端を発するアラブ諸国の西側への対抗策により、原油価格の大幅な値上げと減産が輸入国を直撃する。50日分の石油備蓄しか持たなかった日本はひとたまりもない。翌年には狂乱的な物価高で経済は混迷を極め、成長率は戦後初のマイナスを記録する。先進諸国においても石油依存からの脱却と代替エネルギーの開発は最重要課題となり、その推進に向けて74年に国際エネルギー機関(IEA)が設立されたのだ。

エネルギー源の多様化へ
端緒を開いた松島火力

建設時の松島火力発電所。日本初の超臨界圧蒸気ボイラーをはじめとする数々の新技術で、石油火力に代替できる海外炭火力の実力を証明した。1981年度土木学会技術賞受賞。

 そうした過程での石炭復権は当然のようにも思えるが、国内炭鉱の多くで閉山が進む中、海外から石炭を買うことさえも、当時はコペルニクス的発想の転換だったようだ。書籍『海外炭が日本を救う』(村井了著)に次の記述がある。

——石油は安価なエネルギー源であり、主役の座をとうに石炭から奪っていた。国内炭火力発電所にしても、石炭産業の救済を視野に入れて、政策に基づいて稼働しているに過ぎなかった。(中略)燃料炭の貿易取引は欧米間でのスポット取引があるだけで、このような発想は皆無だった——

 それでも敢えて、Jパワーが松島火力発電所の建設に踏み切ったのは、燃料資源の大半を輸入に頼る国として、多様なエネルギー源を適切に組み合わせる「エネルギーミックス」がいかに重要であるかを認識していたからに他ならない。世界中に広く採掘地が分布し、埋蔵量も豊富な石炭ならば、エネルギー安全保障的なメリットは大きいものと思われた。

 かねてよりその構想を温めていたJパワーは73年春、第1次石油危機にも先駆けて海外炭活用プロジェクトを立ち上げる。スケールメリットでコスト低減を図るための発電出力大規模化をはじめ、難題は山積した。産炭地の選定と相手国との交渉に、貿易ルートの開拓、輸送船の確保、供給網の整備など、すべてをゼロから始めなければならない。海外炭に適した専焼システムの開発も必須となる。

 「誘致から8年を投じて竣工した松島火力は初めてづくしの発電所でした。これまで経験したことのない110種以上の海外炭を混焼する技術。それまでの国内最大出力を倍増する50万kWタービンの採用。日本初の超臨界圧蒸気による高効率化。そして、環境影響調査を踏まえた発電所建設の適用第1号もこの松島です」(椎屋所長)

 長崎県の平均電力需要の約7割に相当する電気を生み出す松島火力。その成功を機に世界各地に海外炭専焼火力が次々と建設され、アジア太平洋地域に石炭貿易の一大サプライチェーンが出現した。

 松島は「電力の島」となり、世界の電力安定供給とエネルギー源の多様化に貢献したのである。

脱CO2の急先鋒へ
松島が果たす新たな使命

松島の西方洋上には五島列島や平戸島の遠景が浮かぶ。ハウステンボスとほぼ同じ面積の松島火力発電所の約半分は緑地。自然と共生する設備でもある。島内にはかつての炭鉱の姿を唯一遺す赤煉瓦の第4坑跡も。

 運転開始から40年の歳月を経て、松島火力発電所は今また新しい挑戦へと向かっている。既存設備に世界最先端の発電技術を加えることで、脱CO2に向けた新たな価値創造に挑むという「アップサイクル」の急先鋒として。Jパワー火力エネルギー部開発室長の中村郷平氏はこう話す。

 「政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2030年度の目標に温室効果ガス46%削減(13年度比)を掲げています。これに先駆け、当社でも昨年2月にJ-POWER ”BLUE MISSION 2050”を発表、脱CO2と電力安定供給を同時に果たすための具体的なアクションプランを示しました。加速性と並んでその重点方針の一つに定めているのが、アップサイクルです」

 新しい技術や発電設備の開発には10年、20年単位の時間を要するが、待ったなしの気候変動問題に対するのにそれでは遅い。新規開発を走らせながら、同時に今すぐ迅速に、確実に実行できる手を打っておく。既存設備を有効利用する重点方針は、そうして段階的にカーボンゼロに達するために据えたものだ。では実際、松島火力に何を加えるのか。中村氏は続ける。

 「石炭ガス化技術です。これは当社が20年以上かけて地道に研究してきたもので、中国電力と共同で運営する広島県の大崎クールジェン(株)での実証プロジェクトを終えて、商業利用での実用化を待つ段階となっています」

 石炭を燃焼した熱を使って蒸気タービンを回すのが通常の石炭火力。これに加えて松島で採用する新方式は、蒸し焼きにした石炭から抽出するガスを燃焼させてタービンを回し、その排熱で蒸気タービンも回すコンバインド発電となる。これによって燃焼効率を高め、相対的に石炭の使用量を減らしCO2を削減する。その先には、植物由来のバイオマス燃料やアンモニアとの混焼によるCO2のさらなる削減、また排ガスからCO2そのものを分離・回収する技術との組み合わせも描かれている。