やや突っ立った投げ方は、肘より、手首の回転が速くなり、スライダーやフォークを得意とする岩隈、スライダー、カットボールを得意とするダルビッシュにとっては、都合のよい投げ方と言えるだろう。ただ、球速が落ちてしまうので、体の回転を速めるなどの工夫は不可欠だ。そのために体幹などの筋力トレーニングを積み重ねていると思われる。滑りやすいボール、ステップした足が動かないマウンドに合う投球に切り替える。これこそ大リーグの適応力ということになるだろう。
数字もこれを物語る。
松坂は基本的に4シーム(直球)を投げる率が高い速球投手。大リーグが公開しているデータなどによると、松坂の全投球に占める4シームは46%に達する。スピード、球の切れを真髄とする4シームにこだわった松坂だからこそ、フォームを変えられなかったのだろう。
一方、岩隈の4シームは31.6%。スライダーは21%、フォークボールは26%を超える。ダルビッシュも4シームは30%、スライダーは19%、カットボール(2シーム)は16.5%。二人とも日本では速球投手のイメージも強かったが(特にダルビッシュは)、自他ともに認める「変化球投手」である。
同じく実績を上げる黒田も実は、変化球投手である。自身は「4シームは投げない」と言うが、統計上は10%程度投げると記録される。その分シンカー(2シーム)は、38%と最も多く投げ、自信を持っていることを物語る。そして、シンカーをより効果的引き立たせるためスライダーも28%を超える。この二つを軸にフォーク、カーブなどを組み合わせるのが黒田の持ち味である。
投手は栄光時代の投球にこだわってしまう
岩隈が今シーズン調子よいのは、このスライダー、フォークボールのコントロールが絶妙だからである。しなやかなフォームを取り戻し、ストライクゾーンからボールになる変化球を決め球にする。日本時代のスピードボールを投げる割合を減らして、省エネを図り、ここぞという時にズバッといく。変化球とストレートとを、うまく組み合わせた投球術が光る。防御率が低い、つまり点を取られない秘密はここにある。
投手というのは、過去の栄光が華々しいほど、そのよき時代の投球にこだわるものである。しかし、郷にいれば郷に従え。マウンドに適応した投球術が求められる。
ダルビッシュは、昨年1イニング当たりの被安打数は少ない(昨年リーグ3位)ものの、四死球が絡んで、簡単に点をとられてしまった。まさに自滅の感も強かった。その修正のため、踏み込み足を、黒田のように「やや開き気味にばたっと」着地するよう、試行錯誤を繰り返した。その結果、変化球のコントロールが安定した。大リーグのマウンドは日本式の野球で育った速球投手には不向きで、一方で、変化球投手には適する。そんな傾向が読み取れる。
今の投球を続ける限り、岩隈、ダルビッシュは松坂のようにけがをせず、今後も活躍してくれるだろう。
[特集] 不屈のアスリートたち
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