同紙によると、イランは無人機だけではなく、「ファテハ110」「ゾルファガール」という2種類の短距離弾道ミサイルをロシアに供与する秘密合意も結んだという。ウクライナと米国は破壊された残骸などから供与は間違いないと断定しているが、イランのライシ大統領は対露兵器供与を「根拠がない。戦争に反対するのがイランの立場だ」と全面否定している。
米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は「イランはウソをつき続けている。彼らは今や、民間人殺りくに直接関わっている」と非難している。国連安保理はこの問題で10月19日、非公式会合を開催。米・欧州連合(EU)はイランに制裁を科した。ウクライナがイランと断交する可能性もある。
イランのメリットは何か
それにしてもイランはなぜ、直接戦争に関与するところまで踏み切ったのか。
ロシアとイランはともに欧米から厳しい制裁を受けて孤立し、苦境にある。「プーチンを理解できる指導者はイランのハメネイ(最高指導者)だけ」(アナリスト)と指摘されるように、ともに米国を最大の敵とみなす。「敵の敵は味方」という追い込まれた者同士がくっついた構図だ。
ロシアが軍事支援を期待していた中国は国際的な反発を恐れて慎重な対応で当てにはできない状況。「プーチンにとって兵器不足を補えるのは北朝鮮かイランぐらいしかない。戦況の劣勢を挽回すべく急きょイランに頼った」(同)というところだろう。
両国の関係は歴史的に良好なものではなかった。関係が深まったのは2015年のロシアによるシリア内戦介入からだ。ロシア、イランともアサド独裁政権を支援して、その崩壊を寸前のところで阻止した。
ロシアはこれにより、中東の主要なプレーヤーの座を固め、イランは米国とイスラエルに対決できる地域を獲得した。ロシアとイランはシリア復興事業の契約も独占した。
イランにとって無人機やミサイルをロシアに供与するメリットは何か。①優れた軍事大国であることを世界に示し、兵器の顧客を拡大できる、②革命防衛隊が牛耳る国内の軍需産業の発展、③米国の制裁が機能していないことを誇示し、イランの強さをアピール、④シリアでの支配地拡大――などが挙げられる。
イランでは現在、女性のヘジャブ着用問題をめぐって反政府デモが全土に広がり、治安部隊の発砲などで240人以上が死亡する危機的な事態になっており、革命防衛隊のエリート部隊「サベリン」も出動している。イラン指導部としては、大国ロシアに兵器供与する強国ぶりを示すことで反政府行動を鎮静化させたい狙いもあるようだ。