シリアに関しては、米メディによると、ロシア軍はウクライナ戦争に投入するためシリア進駐軍の2個旅団(約1600人)を撤収、複数の指揮官を異動した。対空防衛システムS300もウクライナ戦向けに撤去した。
このロシア軍の空白を一気に埋め、支配地域を拡大しているのがイランだ。「ウクライナ戦争の勝利者はイラン」(イスラエル紙)との見方が出る所以だ。
米国との核合意を見限る
イランがロシアに傾斜する背景には、ハメネイ体制内部で一つの重大な決定が行われたと見る向きが多い。それは「米国との間で続いてきたイラン核合意の再建協議を見限った」(専門家)可能性が強いということだ。イランがウクライナ戦争に直接関与したことが明らかになれば、米国などの反発で再建協議の続行が破綻するのは確実だった。
当然イランはこれを見越してロシアへの兵器供与を断行したと見るべきだろう。このまま協議を続けても、「米国が合意から再び離脱しない保証」などの要求を獲得できないと判断したのではないか。
ロシアにとっても核合意の破綻は大きなプラスだ。なぜなら合意に達しなければ、イランの原油禁輸は続く。その結果、原油の高価格を維持でき、戦費を獲得し続けられるからだ。逆に再建協議がまとまれば、イラン原油が大量に市場に供給され、価格の下落につながってしまい、不利になる。
この状況変化にイランの宿敵イスラエルの懸念は強まる一方だ。イランがロシアの支援で核兵器開発に拍車を掛けかねないからだ。しかも隣国シリアでのイランの影響力増大は安全保障上の深刻な脅威だ。
イスラエル国内ではイランの勢いを削ぐため、「ウクライナに防空システムを送るとき」という声も強まっている。イランの〝参戦〟で中東情勢にも危険な空気が張り詰めてきた。