2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月29日

 興味深いことにインドはすでにこの方向に動いている。インドは空港の整備、最新鋭の戦闘機、対地巡航ミサイルの配備、新しい山岳攻撃部隊の創設など、国境の紛争地帯近くの軍事的プレゼンスを増強し始めている。このような動きを続ければ、中国は地上部隊、治安部隊の拡大、地方の基地と輸送インフラの強化など、高価だが脅威を与えない措置を講じなければならなくなる可能性がある。

 他方米国は、国境地帯の中国軍の展開についての情報の提供、空中偵察システムやステルス戦闘機などの売却でインドを支援できる。

 インドは米中の競合の最前線に立つことを好まないかもしれないが、地理、領土紛争、隣国の台頭と競う必要、そして世界的力関係の変化からいって、最前線に立たざるを得ない。その際の真の問題は、中国との均衡の追求において、陸と海とどちらを重視すべきかである、と論じています。

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 インドが大陸国家本来の立場に立ち、中印国境地帯を中心に陸軍力を増強すれば、中国は軍事力増強の重心を再び空海軍から陸軍に移さざるをえず、それが米アジア回帰にとって望ましいことである、との議論ですが、中国が過去20年間、陸の国境をめぐる脅威から解放され、海空軍の増強に重点を移せた主な理由はインドではなく、ロシアです。中国はロシアと2004年に国境問題の最終解決に合意しましたが、国境問題の98%はすでに1991年の東部国境協定締結によって解決しています。その結果、中国にとって北からのロシアの脅威がなくなり、東南部の海洋への進出を可能にしたと考えられます。

 論説は、中国に対するインドへの陸からの脅威を、インド洋における中印の競合に比べて、相対的に過大視しているきらいがあります。やはり、インド洋のシーレーンの確保に貢献してもらうことこそが、米国のアジア回帰に不可欠と考えられます。

 ただ、4月に勃発した中国軍部隊による中印国境の侵犯と、インドのそれへの拙劣な対応は、インドが中印国境の軍事態勢を強化し中国を牽制することの重要性を改めて教えてくれています。論説が言うような、陸か海かの二者択一というのは、あまり適切な議論の仕方ではありませんが、インドが北部国境を防衛する十分な能力を持ってこそ、後顧の憂いなく、インド洋におけるシーレーン防衛に貢献できるはずです。

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