東海大相模・大田泰示のフラッシュバック
さて、一番気になるところは巨人入りした浅野が周囲の期待通りにプロの世界で花開くことができるかという点に尽きるだろう。何せ巨人は12球団の中でも、否応なしに最も注目が集まる超人気球団。一挙一動がネタにされる。その重圧にも負けず成長過程を歩み、浅野は将来的にレギュラーへ食い込むことができるか――。
どうしてもフラッシュバックされるのは、これまでドラフトのくじ引きで分が悪かった原監督の唯一の「1勝」の時に一体何があったかということである。2008年のドラフト会議で当時・東海大相模の大田泰示外野手(現横浜DeNAベイスターズ)を1位指名した巨人は第二次政権を率いていた原監督が壇上に立って当たりくじを引き当て、福岡ソフトバンクホークスとの2球団競合を制した。自身と同じ出身校である東海大相模の後輩で高校通算65本塁打を放った大田との交渉権を念願かなって獲得したことで、この時も今年のドラフト会議と同様にして原監督は破顔一笑だった。
しかし大田は入団すると当時まだ18歳にもかかわらず、いきなり準永久欠番扱いだったスーパーレジェンド松井秀喜氏のかつての背番号「55」を背負わされるなど球団側から破格過ぎる扱いを受けたことが逆に過度な足かせとなってスタートからつまずき、巨人在籍の9シーズンではほとんど真価を発揮できなかった。ところが2017年からトレードで北海道日本ハムファイターズへ移籍し、栗山英樹監督のもとで水を得た魚のように活躍し始めてレギュラーに定着。「恐怖の2番打者」として、その名を轟かせるなど皮肉ながらも巨人を退団したことで遅咲きを果たす格好となった。
原監督とも親交のある巨人の古参OBは次のように言う。
「あの(大田)泰示の時のトラウマが未だ拭えていない空気感は確かにある。結果として泰示は日本ハムで1億円プレーヤーにもなって大成したから良かったようなものの、ウチでは鳴かず飛ばずであったのは誰の目にも明らかなわけだから。原監督が当たりくじを引いて交渉権をつかみ、チームに導くきっかけを作っても結局はダイヤモンドの原石を育成し切れなかったという汚点を残してしまった。
そういう経緯をあらためて振り返ってみれば、今年のドラフトで浅野君との交渉権を手にし、原監督が『感極まって泣いていたんじゃないか』とまでささやかれるぐらいに大喜びしていたのも大いにうなづける。泰示の育成失敗以来、原巨人は球界内で〝育成下手〟とのレッテルを貼られてしまった。
だからこそ今年のドラフトで泰示と同じ鳴り物入りの大物高卒ルーキーとなる浅野君を巨人に迎え入れ、今度こそ必ず大成させてみせる。そういう〝リベンジ〟の思いも原監督の胸の内には少なからずあるだろう」
23年で第3次政権5年目を迎える原巨人は来季のコーチングスタッフとして一軍に新任の大久保博元打撃チーフコーチ、亀井善行打撃コーチが、二軍には代行から正式に指揮官となる二岡智宏監督が名を連ねている。高卒ルーキーの浅野は二軍からじっくり育成していく方針になるとみられるが、いずれにせよファームでは打撃指導においても定評の高い二岡二軍監督自らが大物ルーキー育成に直接携わっていく方向性のようだ。