今年になり、BHの投資戦略として話題になったのが、石油会社の株式購入だ。世界の機関投資家が、脱炭素に沿い化石燃料関係企業への投融資から撤退する中で石油会社の株式を買い増している。
環境団体は、「化石燃料インフラに投資を続け、石炭火力からの撤退も遅い。温暖化問題に取り組んでいない企業」としてBHを槍玉にあげているが、バフェット氏は非難を気にしていないように思える。
非難されても化石燃料に投資する
BHEは、米国バイデン政権の方針2050年温室効果ガスゼロに沿い「2049年」までに石炭火力を全廃するとしている。また、二酸化炭素の捕捉・貯留などの技術革新にも力を入れるとしているが、具体策に乏しいとして環境団体から非難を浴びている。
バフェット氏も16年に「温暖化問題には対処可能。保険業界にとっては利益を生むリスクだ」と発言し、大きな批判を受けたことがある。その後、個人の考えを会社経営に反映させることはないと釈明することになった。
BHは、19年米国の石油企業オキシデンタル石油(OX)に対しシェールオイル企業買収資金として10億ドル(1500億円)を優先株購入の形で支援した。同時にOXの株式8390万株(発行済み株式の約9%)を1株当たり59.62ドルで購入する権利も得た。当時の株価は約60ドルだった。
その後、コロナ感染症が広がったことで、石油価格とOXの株価も大きく下落する。20年10月には株価が10ドルを割り込むが、その後の石油価格の回復に合わせ株価は今70ドルまで上昇した。
今年になり、BHはOXの株式購入を続け、20.2%の株式を保有するまでになった。さらに、50%まで購入する許可を連邦エネルギー規制委員会に申請し、取得した。
BHは米国第2位の石油会社シェブロンの株式購入も行い今8.2%を保有している。OXを子会社化し、その後シェブロンとの合併を狙っているのではとの市場関係者の観測も流れた。
世界はバフェット氏を必要とする
BHが脱炭素の流れに反し、化石燃料関係インフラと石油会社株式への投資を続ける理由は、需要が直ぐに大きく落ち込むことはなく、しかも化石燃料関連への投資が15年のパリ協定合意後減少していることから、今後価格も当分下がることはないと踏んでのことだろう。
環境活動家の目には、とんでもない行動に映るかもしれないが、考えて欲しい。新興国では化石燃料の需要は依然として増えている。エネルギー分野への投資が減少すれば、化石燃料価格はさらに上昇する。
誰かが投資により化石燃料生産を支えなければ、供給も細りエネルギー危機が頻発するかもしれない。収益が目的としても、新興国のことを考えた社会的投資をバフェット氏は行っていると言える。
化石燃料への投資を削減してきた投資家と金融機関はESG(環境・社会・統治)投資の内、「E(環境)」しか考えていないのではないか。「S(社会)」を考えると化石燃料は依然として必要だ。エネルギー危機が頻発する事態に世界は耐えられないだろう。世界はバフェット氏を必要とする。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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