2024年7月16日(火)

World Energy Watch

2022年10月24日

 日本も価格上昇の余波を受けている。特に影響が大きいのは、石炭価格の上昇だ。日本は一次エネルギーの約25%、電力供給の約30%を石炭に依存している。

 電気料金の燃料費調整制度にはタイムラグがあるので、これから石炭価格上昇が電気料金に反映され、料金のさらなる上昇が見込まれている。岸田文雄首相が電気料金抑制を打ち出さざるを得ない背景だ(「エネルギー危機、拡大へ フィンランドの街灯が消える日」 )。

 EUが苦しんでいるのは、ロシアから大部分がパイプライン経由で供給されている天然ガスの代替だ。購入量が多い上、ロシアへの依存度が高く他のソースからの調達は簡単ではない。

 ロシアはEUが科した制裁への報復としてEU向け天然ガス供給量の削減を続け、輸入国が音を上げるのを待っている。一方、EU諸国は石炭、石油への代替により天然ガス消費量を削減している。

 例えば、ドイツは石炭火力発電所の再開により天然ガス火力の利用率を落としている。今年1月から9月までEU27カ国では、天然ガスの消費量は前年同期比7%減少し、ロシア依存度も開戦後の第2四半期には半減した(図-2)。

 ロシアからの購入量が天然ガスよりも少ないとは言え、石油、石炭の代替ソースからの調達も簡単ではない。現に、石炭のロシア依存度は第2四半期もあまり下がっていないが、EUは8月10日からロシア炭の輸入禁止に踏み切った。EU諸国の石炭需要量が増える中での禁輸なので、代替ソースの豪州、南アフリカに需要が集中し石炭価格は史上最高値を更新し、その後も高値で推移している。

 化石燃料不足と高騰する価格に苦しむのは先進国だけではない。米国からの液化天然ガス(LNG)の輸出開始と価格下落を受け最近LNGの購入を開始した途上国の中には資金不足により、化石燃料を購入できず計画停電を実施せざるをえない国も出てきている(「途上国を停電と飢えに追いやる先進国の脱化石燃料」 )。

天然ガスで浮上した「2023年問題」

 欧州では「天然ガス2023年問題」が話題になっている。ロシアが8月末にノルドストリーム1経由のEU向け天然ガス供給を削減するまでの夏季の不需要期にEU諸国は、冬季に備えた天然ガスの貯蔵を急いだ。その結果、10月中旬時点でEUの貯蔵量は能力の90%を超え、3.3カ月相当分の消費量を貯蔵することに成功した。

 ロシアからの天然ガス供給量は、EUの輸入量の10%を下回るほどに落ち込んでいるが、仮に供給が途絶しても、この冬を乗り切ることはできそうだ。だが、23年にロシアが供給を行わないと、冬に向けた貯蔵を増やすことができず23年の冬に天然ガス供給が不足する可能性が指摘されている。23年問題だ。欧州では暖房を天然ガスに依存する家庭が多い、また産業部門も石油・石炭依存度が高い日本と異なり、天然ガスへの依存度が高い。

 過去50年間の大半において、日本向けLNG価格よりもパイプライン経由のロシア産天然ガス主体のEUの天然ガス価格は安く(図-3)、ドイツを筆頭にEUの産業の競争力を支えた。冬季に天然ガスが不足すると、産業と家庭が大きな問題に直面する。


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