国産化の背景にあるソ連・ロシア依存への危機感
なぜインドは、ここまで国産化にこだわるのだろうか。それには歴史的な経験がある。インドの武器輸入(図参照)を見てみると、インドが独立当初は英国に、その後、ソ連に依存してきた経緯がわかる。しかし、1991年にソ連が崩壊すると、インドは危機に陥った。
武器は、最新型の装置であるにもかかわらず、乱暴に扱う。すぐ壊れるから、修理部品が常に必要だ。弾薬も使う場合がある。弾薬の補給も必要だ。
ソ連製の武器を保有しているということは、インドはソ連からの供給に依存していたのである。だから、ソ連が崩壊してしまうと、インドの軍人たちは、旧ソ連の軍需工場跡地を歩き回り、部品を探してこなくてはならなくなった。みじめな経験だ。
もしインドが、ソ連製の武器を自国で生産していたら、そのような事態は防げたのかもしれない。実際、インドは、ライセンスを取得して、ソ連製の武器の生産を行ってきた。しかし、そこには条件があった。
ソ連は、インドがライセンス生産した武器やその部品を、他の国に輸出することを認めなかった。結果、インドは、自国向けの生産が終わってしまうと、その生産ラインを閉じることになった。その時にせっかく獲得した生産技術は、失われてしまったのである。
だから、今、インドは武器の国産化と、その輸出にこだわる。最近、ロシアのウクライナへの侵攻があり、状況はさらに切迫した。
西側諸国がロシアに対して経済制裁をかけ、ロシアは武器を生産するための半導体の入手に苦労するようになった。インドは、ロシアからの武器やその部品、弾薬の調達が難しくなり、国産化の重要性に気付いたのである。インドは、ロシア製武器の100以上の部品をリストアップし、国産化を進めている。
イスラム過激派をめぐる、米印パの複雑な関係
このような国産化を進めるインドにとって、重要度を増すのが西側諸国だ。過去10年のインドの武器輸入額をみてみると、米国、フランス、英国、イスラエルから輸入した金額の合計は、ロシアより輸入した武器の金額よりも多い。ただ、インドにとっては、西側諸国との関係は複雑だ。
特にインドが気にしているのは、米国とパキスタンの関係だ。冷戦時代、米国は主にパキスタンを支援し、インドは米国へ不信感を持ってきた。
冷戦後、米国は、パキスタンよりもインドを重視する姿勢をみせたが、2001年に9.11同時多発テロが起きると、インドだけでなく、パキスタンへも支援するようになった。イスラム過激派対策にパキスタンの協力が必要だとみたためだ。
その関係が今、再び問題になっている。21年、米国がアフガニスタンから撤退すると、アフガニスタンにタリバン政権が成立した。以後、イスラム過激派の活動が活発化している。