2024年5月9日(木)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年11月4日

「世界初」の培養フォアグラを量産へ

 培養肉のもとになる種(たね)細胞を変えれば、動物の肉はもちろん、魚肉や皮革、化粧品に使う成分など、さまざまなものを培養できる。同社が最初に量産体制を確立しようとしているのは、「培養フォアグラ」である。2019年に世界で初めて生産に成功した。すでに月に8キログラムを製造する体制を整えており、24年からは月に320キログラムを製造し、レストランなどに販売することを目指している。

 高級食材のフォアグラは、ガチョウやアヒルに大量の餌を強制的に与えることで、肝臓を極端に肥大化させたもの。強制給餌がアニマルウェルフェアの観点から問題があると、生産や輸入、販売を禁止する国が増えている。そのため人工培養のニーズが高く、高級なだけに製造コストも回収しやすいと同社は見込む。

 試食したシェフからは「ピュアで芳醇で、少量でも香りと味がふわっと広がる」と高評価を得た。フォアグラには血管や血液に由来するくさみや雑味がある。培養フォアグラだとそれらがなく、香り高いという特徴を持つ。

 フォアグラに次いで、鶏むね肉の商品化も目指している。なお、商品化する場合はペースト状の培養肉を固めて成形する。ステーキのようなブロック肉の製造は、まだ研究の途上にあるからだ。

 肉に先駆けて22年に商品化されたのが、化粧品の原料「セラメント」。鶏卵由来の細胞を培養したもので、化粧品の成分としては胎盤由来のプラセンタに近い。複数のメーカーが化粧品の原料として使っている。

植物プランクトンと肉の培養を組み合わせる

 商品化が進みつつあるいま、同社は培養コストの一層の削減を目指している。

 「すでに販売している第一バージョンの基礎培地よりも、コストを大幅に低減する第二バージョンを研究開発しているところです。さらに25年ごろからは『第三バージョン』が使えるようになるとみています」(羽生さん)

 第三バージョンの基礎培地が使うのは、光エネルギーで増殖するクロレラやミドリムシ(ユーグレナ)といった微細藻類(植物プランクトン)だ。培養肉の製造には、穀物由来の糖分やアミノ酸を使う。これらの栄養素を微細藻類から抽出して、培養肉を作ろうというのだ。

 「穀物由来の栄養素を微細藻類に由来するものに置き換えられれば、人が一般的に食べる食料と培養肉の原料が競合しなくなります。また、これまで原料とされてきた穀物のほとんどは海外から輸入しているので、藻類に置き換われば、食料自給率の改善にもつながります。宇宙で培養肉を作るということも可能になるんです」(同)

 微細藻類を培養肉の原料とするだけでなく、その培養を人工肉の培養と組み合わせる研究も、大学や同社などの共同研究で行われている。培養を続けると、培養液のなかの糖分やアミノ酸が減り、酸素濃度が低くなる一方、乳酸やアンモニアといった老廃物がたまっていく。人体においては、腎臓が老廃物を集めて体外に排出しており、培養液のなかでそうした役割を果たす微細藻類を研究している。


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