2024年11月22日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2022年11月4日

再生医療と大規模な細胞培養の技術が強み

 13年に世界初の試食会で供された培養肉は、オランダのマーストリヒト大学で培養された。20年、培養肉の販売を世界で初めて認めたのはシンガポールだった。多くの国が開発に参入するなか、日本の強みは何なのか。

 羽生さんが挙げるのは、再生医療の技術の高さと、大型の細胞培養の技術だ。後者については、ヤクルトやカルピスといった乳酸菌飲料メーカーが大規模な細胞培養の技術を確立している。

 「培養する細胞の種類が違いますが、培養肉の生産に通じるところは結構あります」

 また、再生医療が同社の開発の根幹をなすことは、先に紹介したとおりだ。こうした強みがある一方で、課題も大きい。

 まず挙げられるのは、培養肉を開発するスタートアップに投じられる資金の少なさだ。

 技術開発や基礎研究に対しては、公的な予算が付くようになってきた。国は培養肉を食料自給率を向上するための方策として捉え、積極的な財政出動をしている。「その点では海外よりも進んでいる」と羽生さん。

 たとえば、内閣府が破壊的イノベーションの創出を目指して設けた「ムーンショット型研究開発制度」が培養肉の開発を対象にしている。国立研究開発法人である科学技術振興機構(JST)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)も、開発のためのプロジェクトを立ち上げている。

 「一方で産業化に関しては、培養肉のスタートアップにベンチャーキャピタルが投資する金額の桁が、国内外で二つ三つ違っています。国内は調達額のほとんどが数億円程度です。それに対して、海外は何百億円という金額が積み重なって、総調達額が1000億円を超えるという、日本からすると天文学的な数字に達している会社もありますね」(羽生さん)

 次いで課題として挙げられるのが、市販に先立つ安全性確認プロセスが決まっていないことだ。市販を検討している培養フォアグラについては、主原料となる培養液は既存の食品と食品添加物から成り、安全上の問題はないと思われる。しかしながら、食品衛生法では培養肉を想定しておらず、その安全性を確認するためのルールがまだ定められていない。

 「現状では、培養肉の安全性が確認できないため、培養肉を作る食品工場として保健所に届けを出しても、受理してもらえません。」(同)

 培養肉が既存の制度で想定されていないため、国内で市販にこぎつけるにはまだ時間がかかりそうである。それだけに、24年に量産を見込む培養フォアグラについて「企業としての現実的な解は、培養肉の販売を認めているシンガポールでの先行上市になるかもしれない」と羽生さんは危惧している。

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