革新系運動に結びついた狂牛病騒動とセウォル号沈没事故
08年2月に就任した李明博大統領は、米国で牛海綿状脳症(BSE)感染牛が発見された03年以降中断されていた米国産牛肉輸入の再開を発表した。すると、同年4月末にMBCテレビのドキュメンタリー番組「PD手帳」が、「米国で通常のヤコブ病で死亡した女性の死因がBSEに感染したことによる新型ヤコブ病だった」、「韓国人が狂牛病にかかる確率は94%」などと虚偽の報道を行ったことで、いわゆる狂牛病騒動が起きて、韓国社会は大混乱に陥ることになる。
かねてから李明博大統領を批判していた革新系の団体や労働組合がキャンドル集会・デモを呼びかけ、教職員組合が「若年層ほど感染しやすい」とデマを上塗りしたことで、中高生まで参加するようになった。5月から7月までソウル市内中心部を燈火で埋め尽くしたキャンドル集会・デモへの参加者は延べ600万人、経済的損失は3兆7000億ウォン超ともいわれている。
当初、狂牛病を恐れて集まった市民の行動は、煽動のプロである革新系団体の「親米の李明博政権は米国の顔色を窺って狂牛病を隠蔽し、輸入を継続しようとしている」などのプロパガンダによって、李明博政権打倒に姿を変えていった。
そして、朴槿恵政権下の14年4月、大型貨客船「セウォル」号が沈没し、死者304人を出した韓国最大規模の事故が起こる。修学旅行中の高校生250人が船内に閉じ込められたまま亡くなったことが明らかになると、韓国世論は沸騰した。
事故の原因について最高検察庁は、「船を無理に改造し、過剰積載状態で出港した後、船員の運航の過失で沈没した。救助を行った木浦海洋警察署の問題ある対処、救助会社選定過程での不法行為で死亡者が増えた」と結論づけた。つまり、セウォル号が沈没した直接の原因は運航会社と乗組員の過失だが、多くの死者を出したのは海洋警察の不手際と断じたのだ。
後に朴槿恵大統領が「韓国社会に慢性的に根をおろしてきた異常な慣行が大きな影響を及ぼした」と述べたように、事故は韓国社会の特質である拝金主義や成果至上主義、巧遅より拙速を尊ぶパリパリ(速く速く)文化、公務員が権威を笠に着る官僚マフィア文化が複合的に結びついて起こったものだが、世論の矛先は朴槿恵政権打倒に向かっていく。
セウォル号遺族が真相究明を求めて要求した「セウォル号特別法」の制定を促すために革新系団体がキャンドル集会・デモを呼びかけると、インターネットの普及も後押しして個人での参加活動が活発化し、集会や追悼式などに延べ1090万人、つまり、韓国人の5人に1人が参加するに至った。
朴槿恵大統領の任期は13年2月から17年3月までであったが、彼女の大統領人生の大半は、相次ぐキャンドル集会・デモの燈火によって照らし続けられたといえる。結局、朴槿恵大統領は友人の崔順実氏を政治に介入させたことで弾劾追訴された。
しかし、革新系団体が執拗に追及し、世論を煽り続けた本当の理由は、彼女が左翼(=革新)を弾圧した朴正煕前大統領の娘であったことに帰結すると言っても過言ではないだろう。