2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2022年11月8日

事故から韓国社会が活かす教訓は

 ここまで読んでいただければ、筆者が韓国外交筋に伝えた見立てがあながち見当違いでないことが分かるだろう。実際、革新系団体が主催する尹錫悦大統領退陣要求のキャンドル集会・デモはソウル雑踏事故の7日前の10月22日、ソウル中心部に約40万人(警察発表約1万6000人)を集めて行われ、事故当日にも同じく同規模で行われていた。そして、主催者は「11月19日、12月17日に大規模集会を行う」と発表し、そのわずか数時間後に梨泰院で大惨事が起こった。

 しかし、先例を熟知する尹錫悦大統領は、轍を踏まぬよう素早く適切な対応をとる。事故当日の深夜に緊急会議を開き、10月30日から11月5日までを「国家哀悼期間」と定め、事故の収拾と再発防止に努めることを宣言し、事故現場に足を運び哀悼の意を表した。

 リーダー然とした尹大統領の脳裏には、セウォル号沈没事故での「空白の7時間」があったに違いない。朴槿恵大統領(当時)が事故の報告を受けてから対策本部に現れるまでの7時間について、マスコミやネットで男性スキャンダルを含めて憶測されたことが、弾劾追訴への第一歩となったからだ。

 筆者は事故2日後の朝、韓国公共放送KBSテレビの「梨泰院惨事、過去の『階段・公演会場』事故と瓜二つ」というニュースが目に止まった。要約すると、韓国では17年前にコンサート会場で11人が死亡した事件をはじめ、多くの圧死事故が起きていたが、それらの教訓が何ひとつ活かされていなかったというもの。

 教訓を活かすのはときの政権なのか、警察をはじめとする政府機関なのか、それとも国民なのだろうか。保守政権下でのジンクスとは、革新系団体の扇動で政争化されたのではないのかと、筆者は複雑な心境になった。

 果たして、韓国社会は156人という貴重な命が失われたソウル雑踏事故を受けて、どのような選択をするのだろうか。狂牛病騒動・セウォル号沈没事故で保守政権を打倒し、革新政権を打ち立てて国内に深刻な左右対立を招くと同時に、同盟国である米国、友好国である日本との関係を悪化させたという〝教訓〟があったことも忘れることがないよう祈念する。

   
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