台湾側から見て、中国の「戦狼」ぶりは、「台湾への武力行使の放棄をせず」、「台湾独立に断固反対し、抑止する」などの強硬な文言のみにとどまるものではなく、その他多くの具体的な対台湾政策に表れている。
台湾の邱国正国防部長は、今後の目標として、台湾としては今後とも戦争の準備を強化すること、徴兵制を延長すること、より多くの軍事演習を行うこと、今後、中国の台湾への威嚇活動は強化されるであろうことを覚悟すること、などを強調する。
邱は取材に対し「台湾軍は最後の最後まで戦う。敵軍が上陸をして、旗を各中央省庁のトップに掲げない限り、敵が勝ったとは言えない」と述べている。なお、これまでのところ、邱は、敢えて有事の際に米軍に支援を求めるであろうことについては、言及していない。
習近平の政治目標は台湾抜きには語れない
習近平下の中国が台湾に対し、実際に軍事侵攻を仕掛けるかどうか、強硬な種々の発言にも関わらず、今日のところこれらは憶測の域を超えるものではない。しかし、最悪の事態を想定したシミュレーションを立て、準備を怠らないことが、台湾にとって中国の軍事侵攻を抑止する最善の方策であることは間違いない。
習近平は期限なしの「皇帝」に匹敵する存在となった。経済成長の鈍化、コロナ対策の不備などへの国民の不満を封じ込め、台湾問題で具体的な実績を上げることこそが目下のところ、習近平にとって国民の目を国内問題からそらせるための最大の「大義名分」となっていると見てよい。自らが掲げた「中国の夢」と「偉大なる中華民族の復興」という二大スローガンは「台湾解放」を抜きにしては実現しない、ということだろう。
台湾や台湾海峡の事情に深い経験をもつと見られる東部戦区司令官・何衛東が中央軍事委員会の事実上のトップに抜擢されたことは、中国の台湾侵攻が単なる鳴り物入りの威嚇だけではないということを示すためかもしれない。それに加え、台湾や台湾海域の事情に明るい数名の軍幹部も台湾侵攻のために、中央に抜擢されたようである。台湾をめぐる状況は明らかに、全体として緊迫の度を強めつつある。