10月2日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、元英国外交官で中国の専門家であるチャールズ・パートンが、中国が台湾を侵略した場合には大規模な経済制裁をすることを明確にし、いわば経済的相互確証破壊を成り立たせることで中国を抑止すべきであると論じている。
中国が台湾を侵略するとしたら、グローバルな経済的・政治的災厄となるだろう。
習近平は理性的な指導者に見える。侵略のリスクを冒すことは、グローバルパワーとして中国が自らの利益と価値に沿うよう世界を作りかえるという習の「中国の夢」を危機にさらす。
軍事的抑止力を主張し、中国の前進をはねのける機敏な兵器システムを台湾に供給することは理にかなっている。中国が侵攻した場合、中東から中国に来る石油が通るマラッカ海峡とスンダ海峡を封鎖する可能性があることを、米国が中国に思い出させることも理にかなっている。
しかし、軍事的な抑止力より経済的抑止力の方が大きい。中国共産党が侵攻しない、十分な経済的理由がある。台湾積体電路製造(TSMC)は世界の先端半導体の大半を生産している。同社のCEOは、同社が中国の手に渡ることは認めないと宣言する。
これは米国のミサイルで達成し得るが、必ずしもミサイルは必要ではない。TSMCの工場を維持するために必要な資材、機械、部品の販売を禁止すれば十分である。また2000 億ドル近い台湾の対中輸出のほとんどは、中国の輸出品の構成要素となっている。それらがなくなれば、中国の輸出は数兆ドル減少し、他国の貿易と投資は枯渇し、輸送費と保険料は猛烈に上昇するだろう。
抑止とは、既にある制約を拡大することだ。自由で開かれた国々の政府は、中国共産党に対し、侵略や封鎖の拡大が制裁の引き金になることを明確にする必要がある。
これは、冷戦時の抑止の基礎となった相互確証破壊(MAD)だ。グローバル経済は崩壊するだろう。全ての者にとりその結果は恐ろしいものだが、特に中国共産党にとりそうだろう。
資源、供給網、部品は枯渇する。既に約 20%もある中国の若者の失業率は跳ね上がるだろう。そして、意味のある社会保障制度がない中で生じる貧困と絶望は、抗議と暴動につながるだろう。
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本年8月2日から3日、米国下院議長ペロシが台湾を訪問したことをきっかけに、中国はこれに強く反発し、8月4日から7日、大規模軍事演習を実施した。その後も、中国は台湾海峡において軍事活動を行い、中台間の軍事的対立が「新たな常態」となってきた感がある。
本年8月、ペロシ訪台直後の中国側「演習」において、中国は台湾本島を取り囲むように演習海域を設定し、台湾島東側で実弾訓練を行い、台湾本島を飛び越えるミサイルを発射する等これまでよりも演習のレベルを引き上げた。11発の発射ミサイルのうち5発は日本の排他的経済水域に落下した。