依然変わらぬ台湾問題の構図
一方、台湾問題については、基本的な構図が変わったとは思わない。会談直後にバイデン大統領が「中国側に台湾に侵攻する差し迫った計画があるとは思わない」と発言したので、具体的にどのようなやり取りがあったのか関心があったのだが、この記事によれば、習主席は「中国は台湾再統一を望んでいるが、そのために力を使わないで済むことを望んでいると伝えようとした」とのことであり良く理解できた。しかし、これら全てのことは、中国側が共産党支配を正当化する究極の根拠である台湾再統一を決して諦めないという事情を変えるものではなく、有事に対する最善の準備をすることで中国側に失敗のリスクがあることを理解させ、唯一の道である抑止を確固たるものにするのは引き続き最優先の課題である。
今回のバイデン大統領の「印象」で、例えば米軍近代化の歩みが緩むことなどは有ってはならない。その観点からは、G20に際する米インドネシア首脳会談で、米国がインドネシアの海上保安機構に対してドローン入手他の海上監視能力向上のための支援を打ち出したのは、注目されていないが、大変意義深いことである。台湾海峡、バシー海峡、更にはマラッカ海峡が使用できなくなれば、唯一の代替航路はインドネシアのロンボク・マカッサル海峡であり、同国がその安全確保に貢献できるようになるのは、広い意味では抑止の一環であり、日米欧にとって大きな意味を持つ。米国は、抑止強化に向けた手も着々と打っていると言えるだろう。
いずれにしても、中国側が失敗の可能性を正確に理解することで抑止が働くためにも、米中間で誤解のない「対話」が維持されていることが必須で、その意味でも、今回の首脳会談の意味は大きい。
その後の日中首脳会談についても、その準備のための舞台裏での接触は「楊潔篪-秋葉」間の7時間の議論でも明白なように、しっかりと行われていたはずであり、首脳会談を受けて同様の誤解のない「対話」が維持されることを期待したい。