プラユット政権は、バンコクとヴィエンチャンを結ぶ高速鉄道は2027年か28年――恰も習政権3期目の終わりの年であり、次期政権(4期目か)の最初の年に当たる――には完成予定と語る。予定通りにバンコクとヴィエンチャン、そして昆明が結ばれるかどうかは不明だ。
生活全般に「マイベンライ(なんとかなる)」方式が行き渡っているタイである。やはり予定は未定だ。だが、ヴィエンチャンとバンコクが結ばれた暁には、バンコクからマレー半島を経由してシンガポールに高速鉄道が建設されるだろうことは想像に難くない。
11月23日、AFP通信日本語版はCGTN(中国中央電視台国際ニュース)を転載する形で、重慶と昆明を結ぶ高速鉄道(「渝昆高速鉄路」)の工事で重量最大級の組み立て箱桁の架橋に成功したことを伝えている。
やがて重慶を発し、昆明・ヴィエンチャン・バンコク・クアラルンプールを経由してシンガポールを結ぶ高速鉄道を中軸にして動きだす――これが地理的に捉えた「アジアの陸」の近未来の姿ではなかろうか。
日本外交は「世界の中の日中関係」という視点を
以上を絵空事、あるいは悪い冗談と一笑に付すことも可能ではある。だが日本が1990年代初のバブル崩壊の後遺症に苦しんでいる30年余の間に、中国に対する日本の伝統的地理観の視野の外側辺りの「アジアの陸」で起こっていた現実を、やはり正視すべきだ。そこは姿を変えつつあり、その中心的プレーヤーが中国であることは紛れもない事実であり、そのことは否応なく認めざるを得ない。
おそらくこういうことだろう。
日本が中国との関係を日中関係主軸で組み立てることが出来ていた時代は、とうに過ぎ去ってしまった。鄧小平の時代、中国外交における日本の比重は相当に高かっただろう。それというのも当時の中国が喉から手が出るほどに欲しかった資金と技術を、日本がふんだんに提供していたからである。だが現在はそうではなくなった。それゆえ中国外交にとって日本の優先順位は往時に較べるべくもなく下がっているだろう。
やはり「アジアの陸」の現実が物語っているように、周辺の国際環境からして、すでに日中関係は日中両国の間に納まりきれるレベルを超えた。もはや日中関係という視点からだけで中国を捉えられる時代ではない。
敢えて表現するなら、世界の中の日中関係とでも言うべき視点に立って、改めて中国を捉え直す時期に至っているのではないか。今はもう、かけ声のように「日米同盟を基軸」として、米国に全てを委ねて安住できる時代ではない。あるいは中国の歴史に関する該博な知識に耳を傾けて悦に入っていっていればいいといったレベルも遙かに超えている。
かてて加えて日本人として認識を新たにしなければならないのは、「アジアの陸」における地理感覚である。じつは前掲の雲南旅行で「アジアの陸」に関し思い知らされたことがある。それは芒市の街中で目にした「中国でインド洋にいちばん近い都市:芒市」と記されていたキャッチコピーだった。
海に囲まれた列島に住む日本人の一般的感覚では、芒市は中国西南端のどん詰まりであり、中国世界の〝最果て〟に位置するはずだ。だが考えて見れば、陸続きの大陸では〝最果て〟は、その向こうに広がる別の文化圏への関門でもあり入り口でもある。〝最果て〟ではなく、2つの文化圏の結び目であり中心だった。
であるからこそ中国は、「アジアの陸」に執着するに違いない。そのことを「アジアの陸」で起きている現実が教えてくれる。
習近平政権は今後、当然のように「力」を前面に打ち出しながら世界秩序への容喙の度を深めるに違いない。であればこそ「アジアの陸」の変容する姿を正確に捉えることが、日中関係の隘路から抜け出す道に繋がることになるはずだ。
日中国交正常化50年、香港返還25年と、2022年は、中国にとって多くの「節目」が並ぶ。習近平国家主席が中国共産党のトップである総書記に就任してからも10年。秋には異例の3期目入りを狙う。「節目」の今こそ、日本人は「過去」から学び、「現実」を見て、ポスト習近平をも見据え短期・中期・長期の視点から対中戦略を再考すべきだ。。
特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。