2024年4月24日(水)

古希バックパッカー海外放浪記

2022年12月3日

極東からみたモスクワ

 チヤングーで同宿したY君はハバロフスク出身のエンジニア。遠隔操作技術の専門家だ。海外からの依頼も多いという。毎日会社から何度もメールや電話で仕事の相談がくる。パソコンで作業することもある。

 温厚な人柄で一生懸命英語で訥々と語る。離婚して元妻と5歳の娘はモスクワ暮らし。たまに娘に会いにモスクワに行くのでモスクワ事情にも明るい。

 Y君の祖母はスターリン時代にシベリアへ強制移住させられたウクライナ人だ。ウクライナ語とロシア語で意思疎通できるし人種的にも変わらないし、ロシア人はウクライナ人を同胞だと思っていたという。それゆえY君は心が痛むと胸の内を吐露。

 地方では物価上昇で生活が苦しくなっている。ハバロフスクでは衣料品価格がモスクワの2倍にもなっている。

 モスクワでは市民生活は戦争前とあまり変わらずウクライナ問題は他人ごとと思っている。ロシア人は自分さえ良ければ他人の不幸や不正には見てないふりする。帝政ロシア時代、ソビエト連邦時代と長年にわたり独裁国家が続き圧政の下で庶民が生きるための智恵として『見ぬふりをする』ことが習性になった。残念ながらこうした国民性がプーチンの長期政権を可能にしているとY君は嘆息した。

毎晩ランチキ・パーティー。ヤング・ロシアンの聖地チヤングーのビーチ

ロシア人のデイスアポラ、国を捨てるロシア人

 Y君は2カ月前にロシアを離れカザフスタン→ドバイ→タイ→バリ島というルートで数日前にバリ島に到着。Y君が聞いたところではウクライナ戦争開始後出国したロシア人と以前からの海外在留ロシア人を合計すると1500万人という。

 元々ニューヨークとロサンゼルスにそれぞれ10万人暮らしていた。戦争開始後はグルジア、カザフスタンにそれぞれ200万人、1年間滞在できるトルコに100万人いると。

 Y君は大量のロシア人が国を離れている事実が国家としてのロシアの危うさを物語っていると憂慮。

現代の「ノーメンクラツーラ」(共産主義時代の支配階級の呼び名)

Y君はじめ欧米バックパッカーに人気の安宿。1泊430円也

 Y君は名門大学工学部卒業。いろんな人脈がある。友人に治安部門に勤務するエリートがいる。ロシアではエリート官僚、特に警察、諜報機関、治安、軍隊などのエリートには、さまざまな特権が与えられる。通常のボーナスの他に特別ボーナス、高級アパート、国内移動の飛行機・列車のフリーパス、運転手付きの車などなど。

 しかし余り出世すると政治的抗争に巻き込まれるので、有力者とは距離を置いて慎重に振る舞っているよし。

政権批判は人生を変える

 Y君の友人のひとりは若い時にプーチン政権を糾弾するデモに参加した。逮捕され2年間服役した。

 出所して5年以上立つがいまだに当局の監視下にあり、ちょっとした旅行でも行先、滞在先など尋問される。ロシアは密告社会なので絶えず人の目を気にして生活しているという。

 友人の個人データは当局のネットワークに登録されており実質的に海外脱出は不可能。空港の出国審査で引っ掛かり、別室で飛行機が離陸するまでだらだら尋問されるからだ。

 プーチンが退陣して次の政権が出来ても当局の対応があまり変わらないだろうと諦念しているという。他方で当局のこうした対応はロシアの人々に広く見せしめ効果をもたらし政権批判を抑え込んでいるとY君は分析した。

   
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