保手濱 サッカーに対する視点の角度が広がることで、観戦に同じ時間を費やすとしても、楽しさや満足度はより高まるはずだ。
さらに漫画のストーリーを通じて登場人物の人生や意思に感情移入することで、現実の選手たちに対してもそのバックグラウンドに思いを馳せ、〝人間〟として応援できるようになるといった、読者の成長も期待できるのではないか。
今野 著者である小林先生はいつも「主人公たちの〝人間ドラマ〟を描きたい」と仰っている。一人の人間が成長する過程で、周りと協力し、ときにぶつかりながら心身ともに変化していく。徹底した取材を通して、現実の育成現場で起こっている人間ドラマに小林先生自身が共感し、のめり込むことで『アオアシ』の作品としての深みや奥行きが生まれていると感じる。そういった部分に読者が魅力を感じ、リアルのサッカーに対しても同様の視点を持って楽しんでくれるとしたらとても嬉しい。
ポジションごとの役割
選手自身に思考させる
保手濱 作品を今振り返って、転機となったと感じる場面は。
今野 主人公の葦人がFWからSBに転向するという仕掛けは、実は連載開始前から用意していた。そのために、福田達也監督からSBへの転向を命じられるシーンを単行本6巻の最終話に収まるように計算してストーリーを進行させたり。インターネット上の反響も大きく、読者の予想を良い意味で裏切ったことで、その後の展開への期待につなげることができた。
保手濱 私自身、「サッカー漫画の主人公はシュートを決めるFWだろう」と無意識に刷り込まれていた部分があったので、大きな衝撃を受けた。サッカーにおける戦術の重要性を伝えたことに加え、「各ポジションの役割」に焦点を当てたことも『アオアシ』の功績の一つだと感じる。
上手な子ばかりがFWで攻めのポジションを任されるだけでなく、守りのポジションであるSBにしか果たせない重要な役割があり、葦人のようにチームになくてはならない存在として活躍できる。幼少期からそのような意識を持って、各々のポジションの役割を最大限果たそうと努力することで、日本サッカー全体の底上げにつながるのでは。