発電コスト上昇分を反映しない規制料金
規制料金の燃料費調整制度には上限価格があり、既に調整額が上限価格に達していることから、上昇している発電コストをすべて料金に反映させることはできない。
今回値上げを申請した5電力の内、中国電力と値上げの申請を行う予定と報道された東京電力の燃料費の調整額の推移は、図-4に示されている。中国電力では3月に調整額が上限額を超え、東京電力では9月に超えた。それ以降、電気料金に反映される額は上限額となり、電力会社が受け取る額がコストを下回る逆ざやになっている。
燃料費調整額の上限値が電力会社により異なるのは、電源構成が異なるため使用する化石燃料の構成比率も異なることと、基準になる年が異なるためだ。例えば、東京電力の基準燃料価格4万4200円(原油換算)に対し、中国電力では2万6000円だ。
実際に支払われている燃料費は、燃料費調整制度の額よりもさらに多いと思われる。調整制度で想定されている電源構成が、今大きく変わっており、化石燃料の使用比率が現在の規制料金が査定された時よりも大きくなっているからだ。
原発がない沖縄電力以外の電力会社は、原発の利用を想定していたので、燃料費の計算もその前提で行われた。しかし、申請を行っている大手電力では、四国電力の伊方3号機しか再稼働していないため、想定していた原子力発電分も化石燃料を利用し発電している。
これからどうなる電気料金
電気料金が大きく変動しているのは化石燃料価格が変動しているためだが、すぐに電源構成を変更することは、不可能であり、当面化石燃料価格に電気料金は左右される。日本の発電コストに大きな影響を与えるのは、LNGと石炭価格だ。
トルコを含め欧州諸国は、21年ロシアからパイプライン経由で167BCM(1670億立法メートル)の天然ガスと17.4BCMのLNGを購入していた。今年前半、世界一のLNG輸出国となった米国の21年のLNG輸出量は世界3位の95BCM、世界一の豪州108.1BCM、2位カタール106.8BCMだった(いずれもBP統計)。
豪州には輸出能力増強の具体的な計画はないが、米国は25年までに能力を1.4倍弱、カタールは27年までに約1.2倍にする計画がある。仮に米国とカタールの増産分がすべて欧州に出荷されるとしても、欧州がロシアから購入していた量の3分の1程度に留まる。
欧州諸国がロシアからの輸入量を削減する一方、世界では途上国のLNG需要量は増加しているので、米国とカタールの増産によっても需給環境は改善せず、欧州市場を中心に天然ガス価格は高値が続く可能性がある。
石炭の需給バランスも直ぐには改善しない可能性が高い。国際金融機関、機関投資家は、二酸化炭素排出量が多い石炭を生産する炭鉱を「座礁資産」として投融資の対象外とした。このため、石炭の生産増は簡単ではなく、世界の一般炭貿易量の約2割を供給していたロシア炭の代替は容易ではない。
LNGも石炭も来年高値が続く可能性が高い。高くなった電気料金が大きく下がる可能性は小さいだろう。