2024年11月22日(金)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年12月14日

 この点、10月時点の円REERは1971年8月以来の低水準で推移している(図表②)。こうした動きはもちろん、一時150円を突破した円高・ドル安に象徴される名目ベースの世界に影響された部分もあるが、あらゆる財・サービスに関して内外価格差が開いた結果、実質ベースでの円安が進んでいるという実情も見逃せない。

 実質ベースの為替レートを議論する際は相対的に低くなった国内物価の部分について「コストが安くなった→実質的に通貨が安くなった」という解釈に至る。日本の物価情勢が海外のそれよりも長年劣後していることは周知の通りであり、現状ではその度合いがさらに強まっている。円REERの急落は海外の急激なインフレと国内の穏当なインフレの結果である。

円高でも水やビックマックは米国の方が高い

 こうした実質レートで見た大幅な円安は結局のところ、「日本だけ賃金が上がらない」といういつもの問題意識に帰着する。分かりやすい具体例を紹介したい。

 先日、ある経済番組で日本からニューヨーク(NY)への出張者がジョン・F・ケネディ空港で購入したペットボトル(約600ミリリットル)の水が3.85ドルであり、これが1ドル140円換算で540円程度になるという事実が円安の副作用として取り上げられていた。しかし、600ミリリットルのペットボトルの水は日本で100~120円程度だ。だとすれば、仮に1ドル75円の史上最高値まで円高・ドル安が進んでも米国のペットボトルの方が倍以上高い(3.85ドル×75円で289円程度となる)。

 ほかにもビックマックの値段は米国で5.15ドル、日本では410円だ。両者が等価になる為替レート(いわゆるビックマック平価)は80円弱であり、1ドル100円まで円が高くなっても米国のビックマックの方が高いことになる。類似のことはビックマック以外の身近な商品(例えばスターバックスの飲料など)でも表現可能である。

 そうしたモノの値段の格差はヒトの値段、すなわち賃金の格差に由来する。この点も分かりやすい例がある。今年9月、日本でも話題となった米国の最低賃金の話を引き合いに「実質ベースで半世紀ぶりの円安」ということの意味をさらに強調してみたい。

 今年9月5日、米カリフォルニア州では州内のファストフード店従業員を対象に最低賃金が時給15ドルから最大で時給22ドルまでの引き上げを可能にする法律が成立した。22ドルは135円で換算しても2970円である。日本の場合、全国で一番高い東京都の時給が最低賃金で1072円なのでカリフォルニア州の3分の1程度のイメージになる。仮に、1ドル100円まで円高・ドル安が進行してもカリフォルニア州の最低賃金は2200円で東京都の倍だ。

 結局、名目為替相場の世界で円高が進んでも、世界との物価格差が消滅するわけではなく、だからこそ円REERは低空飛行を余儀なくされることになる。世界はそれをもって「安い日本」を体感することになる。


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