2024年11月25日(月)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2022年12月14日

 日本人が世界で消費する時には高く、外国人が日本で消費する時には安く感じる世界だ。ドル/円相場だけを見て「円安は終わった」との言説が支配的になるのはいつものことだが、世界との差はそれだけで縮まるほど小さいものではなくなっている。

投資ではなく防衛としての「家計部門の円売り」

 こうした状況下、いくら金融市場(プロ)の間で「円安は終わった」と言われても、家計部門(アマ)は日常生活、とりわけ海外の財やサービスを消費しようとする中で「円の弱さ」を体感するはずである。

 市場参加者の関心は米連邦準備制度理事会(FRB)を筆頭とする米国の金融政策と金利情勢に付随した株・為替動向に集中しやすいが、それは金融市場(プロ)の話であって家計部門(アマ)の話ではない。上記の例を挙げるまでもなく、日本人が今、海外旅行に出かけたとして1ドル150円でも120円でも「あらゆるものが高い」という実感に大差はないだろう。

 つまり、賃金・物価情勢に差がある以上、「定価設定の時点で高い」のである。名目ベースの為替変動(円安・ドル高など)は二次的な上乗せ要因に過ぎない。

 こうして「名目賃金は伸びないが、物価は上がる」という状況が続くと家計部門は何を考えるだろうか。恐らく外貨建て資産への投資はかなり手っ取り早い防衛手段である。

 例えば今年、円をドル預金にしておけば、為替差益だけで最大30%程度のリターンが見込めたことになる。円金利の情勢を踏まえれば破格の数字だろう。

 当面、円安発・輸入物価経由のインフレ高進はしばらく日本経済を覆うことが予想される。経験則に照らせば、円安で引き上げられた財の価格が円高で元に戻ることは殆ど期待できない。その間、名目賃金はもちろん横ばいなのだから、実質所得環境は確実に劣化したままである。こうした状況が極まっていけば、外貨建て資産で運用することが「投資」以前に「防衛」の行動として選択される可能性はある。

 そうした「日本人の円売り」は本稿執筆時点では可能性の低いテールリスクとして語られるに過ぎないが、1年前、ドル/円相場が150円を突破するなどという話を聞いても誰も信じなかっただろう。為替市場における価格形成は非線形に動くものであり、その原動力として日本の家計部門の挙動が出てこないかどうか。2023年、頭の片隅に置いても良い論点に思える。

 
唐鎌大輔氏のWEDGE OPINION「止まらぬ円安 耐える国民 機運を変える3つの処方箋」Wedge Online Premiumでご覧になれます。
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