ここ数年の日本周辺の緊張の高まりは、特に世論の防衛力強化への支持の急速な拡大との関係で、極めて重要な要因であることは間違いないが、その「対」として、米国の中国に対する相対的優位性低下への日本関係者の危機感がある。そこから出てくる自然な結論は、日米同盟の抑止力維持・強化のためには、米国の能力の相対的低減を補うために、日本自身が強くなる必要があるし、日米同盟を越えた地域の有志国とのネットワークの強化が重要だということだ。これが、新国家安全保障戦略がよって立つ基本認識の全体像なのだと思われる。
そうであれば、「米国がやるべきことは多い」とのミードの指摘は全く正しいが、その内容は武器・物資の事前集積などには留まらないはずだ。最も重要なのは、米国自身が軍事力の増加・近代化を真剣かつ急速に進めることである。2011年をピークとして減少し2016年にようやく反転増加、2020年にやっと2011年のレベルを超えた米国の国防費は、今後も着実に増加させていく必要がある。
よく中国の台湾侵攻があり得る時期の一つとして指摘される2027年は、米側関係者によれば、中国の軍事的優位確立を防ぐために必要な米軍の強化・近代化のための期限という意味合いの方が強い(もちろん、それを実現できなければ、中国の台湾侵攻を抑止できないと言う側面もある)。そんな中で、来年、バイデン政権が提案する国防費が議会で大幅に増額されるというのは、結果オーライではあるが、政権側の覚悟が問われる事態とも言えるだろう。
経済戦略なくして「アジア回帰」は説得力を持たない
米国は東アジアにおける経済戦略を必要としている、というミードの指摘も大変に的を射たものであり、現在のIPEFなどの動きに加え、何らかの形で「友好国」への市場開放(最近よく言われるFriend Shoring)に踏み込むこと無しには、特に東南アジア諸国は米国の「アジア回帰」を本気で受け止めることは無いだろう。しかし、米国が東アジアでやるべきことは、それに留まらない。より重要なのは、各国が置かれた状況にオーダーメイドで配慮しながら、優先度をつけて安全保障関係の着実な強化を図っていくことである。
このような努力を通じて、米国を中心とする安全保障のためのネットワークを構築することが、米国の相対的優位性低下を補い全体的抑止力を維持・強化するためのもう一つの重要な要素である。その意味で、最近の米比関係の進展には大変に勇気づけられる。インドネシアとの関係でも、最近の米インドネシア首脳会談で発表されたドローン調達の支援や共同訓練などを通じた沿岸警備隊の能力構築支援は、台湾危機に際する同国の重要な役割が同国内の国際航路の自由で安全な航行の確保であることを考えれば、非常に重要な動きだと思われる。