このようなトルコの傍若無人に近い強引な行動の最大の原因は、エルドアンの強烈な個性抜きには語れないであろう。内政面ではイスラム原理主義者であるエルドアンは、国父ケマル・アタチュルクの定めた世俗主義の国是を掘り崩し、なし崩し的にイスラム化を進めようとしている。
トルコは来年6月までに大統領選挙と国会選挙を控えており、選挙対策で必死なエルドアンの外交、内政面での過激な行動は、ますます拍車がかかる可能性が高い。そして、来年は、トルコ共和国建国100年の重大な節目に当たる年でもあり、選挙の苦戦を伝えられるエルドアン大統領にとって勝負の年である。
オスマン帝国の末裔としてのプライド
エルドアンの個人的キャラクターを別にしても、トルコが我々から見て常識外れの行動を取る背景には、トルコがかつてアジア、中東、欧州に覇を唱えたオスマン・トルコ帝国の末裔として、高くて強いプライドを有していて、第1次世界大戦後にオスマン帝国を解体した欧米の言いなりにはならないという気持ちが強いこともあろう。
他方、上記の解説記事の、トルコはウクライナ侵攻で弱体化しているロシアに付け入ろうとしているとの指摘も正しい。トルコにとり、ロシアは、クリミア戦争、露土戦争と長年にわたり、国土を蚕食して来た仇敵であり、ロシアとの関係を戦術的に強化したとしてもトルコとロシアの関係がこの機会に根本的に改善するとは思われない。
2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、トルコは、仲介、調停、斡旋を提案し、また、ウクライナ産小麦の輸出については、国連と協力して成果を出したが、NATO加盟国であるトルコが中立的な立場ではあり得ず、停戦、休戦、和平についてロシアとウクライナの間で何らかの合意を纏めることは困難ではないか。
特にウクライナ紛争は、ウクライナを軍事的、経済的に支援しているNATO加盟国、とりわけ、米国の意向が強く働くであろうが、米国がロシアとの仲介を自国の利益の極大化を狙い、かつ、予測不可能性の塊であるエルドアン大統領を頼りにするとは思われない。