Foreign Policy誌ウェブサイトに11月29日付で掲載された、同誌の外交・安全保障担当のグラマー記者による解説記事‘Turkey Is NATO’s Pivot Point Over Ukraine’は、ロシアのウクライナ侵攻に際してトルコは、北大西洋条約機構(NATO)の一員としてウクライナを支援しているが、同時にロシアとの経済関係も強化している、その目的は、ロシアのウクライナ侵攻から最大限の利益を得ることだ、と論じている。要旨は次の通り。
ウクライナ紛争は、NATOとトルコとの新たな亀裂に焦点を当てる事になった。トルコのエルドアン大統領は、自分がロシアと西側諸国との間を取り持つ腕利きの仲介人になろうとし、同時に軍事介入でロシアが弱体化したことに付け入ろうとしている。
しかし、このような行動を取ることでトルコは既に緊張している自国と西側同盟国との関係を一層不安定にしている。NATO内には、トルコなしにNATOは成り立たないが、トルコがNATOのメンバーでいることにはコストがかかるとの、幅広い理解がある。外部の観察者は、ウクライナ紛争でのトルコの行動が究極の予測不可能要因と見ている。
エルドアンは、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、ウクライナ軍へロシア軍の進撃を阻止するドローンを供与しているが、同時に経済面ではロシアとの経済関係を強化し、同時にロシア産天然ガスの主要なハブとなるための協議を開始した。エルドアンは、ロシアとウクライナとの間の捕虜交換を仲介し、ロシアの海上封鎖の中、安全にウクライナ産小麦を輸出する話もまとめた。エルドアン自身、「プーチンと交渉出来るのは自分だけだ」と豪語している。
しかし、そこにはトルコ自身の裏切り行為もある。近年、トルコは、ロシアの新型対空ミサイルを購入するなどのロシアとの軍事協力を進めることでNATO加盟国を怒らせている。そして、最近は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を妨害している。
NATO内では、エルドアンは、NATOの利益に関係なく、何でも自分が一番でないと気が済まないと考えているという広汎なコンセンサスがある。しかし、エルドアンには、ウクライナ紛争で彼なりの一貫した理屈がある。すなわち、エルドアンは、西側に味方してロシアが勝利するのを阻止するが、それ以上にロシア、ウクライナ、西側諸国、中東諸国に対してトルコの立場を最大化しようとしている。
トルコは黒海の出入り口を扼するという地政学的な立場から、黒海地域が完全にロシアの支配下に陥ることは望んでいない。同時にロシアは、トルコが、来年、総選挙を迎える中での激しいインフレと財政赤字の問題を助けてくれている。エルドアンがロシアとの経済関係を強化してもNATOは同氏を批判することを注意深く避けている。
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トルコと欧米の関係は、昔から蜜月とは言い難く、過去にも様々な事で緊張が高まっている。例えば、トルコがNATOの強い反対にも関わらず、ロシアからS400地対空ミサイルを購入したことがある(報復として米国は、トルコへの最新鋭のF-35戦闘機の売却を中止)。そして、現在、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請に両国がクルド人過激派(PKK:クルディスタン労働者党)に宥和的であるとして反対している。
しかし、上記の解説記事が「トルコなしにNATOは成り立たない」と書いている通り、トルコがロシアの南翼に位置するという地政学的な事情からトルコがNATOの対ロシア安全保障戦略の要石になっているため、欧米は、トルコの身勝手な行動に対して大抵の場合はしぶしぶ容認せざるを得ない。