ウクライナ人も含めたロシア語生活圏がロシアン・コミュニティーの実態
ロシア人男性の二キは英語が下手である。しかも、英語を上達しようという意欲もない。ゲストハウスの個室に長逗留しているベラルーシ人の女性オリガは中学校の英語教師。2人は一番安上がりな手巻きたばこを吸いながら日がな1日ロシア語でおしゃべりしている。そんな次第で外国人がいるとオリガが英語で二キをヘルプする。
二キはカメラマンとして世界中どこに行こうとも生活に困らない、という自信があるからか唯我独尊的生活態度を貫いている。細身の長身でニヒルな風貌である。オリガによると二キは舞台俳優でもあり詩人でもあるらしい。
二キによるとトルストイやドフトエフスキーは‟ロシア„の古典であるという。人種(スラブ系)・言語(ロシア語)・文化・宗教(正教)という観点から‟ロシア„とは現在の国境線に照らすとロシア連邦、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、ジョージアなどが入るという。さらにバルト三国の一部の人々も含まれるよし。ウクライナの言語はロシア語とは異なるが、多くの語彙が共通しており、ウクライナ人とロシア人は通訳なしで意思疎通できるし、宗教もロシア正教であると強調。これら広域‟ロシア„では共通の文化遺産としてのトルストイやドフトエフスキーは広く読まれており精神的バックボーンになっているという。
二キが極端な汎スラブ主義者のように思えたので広域‟ロシア„という概念は個人的かつ主観的意見ではないかと指摘すると広域‟ロシア„の人々が一般的に抱いている概念であるとオリガの通訳を通して反論した。オリガも二キ同様のセンチメントを持っているという。
二キはバリ島でもロシアン・コミュニティーにはロシア人のみならずベラルーシ人、ウクライナ人、カザフスタン人などがロシア語を媒介として生活していると強調。思い起こせばウブドのロシアン・コミュニティーの複合商業施設『パルク・ウブド』ではウクライナ人の若い女性がコワークスペースでロシア人に囲まれてPCを開いて仕事をしていたし、デンパサールのロシアン・インターナショナル・スクールのオーナーはカザフスタン人であったし、チャングーのロシア人向け不動産投資説明会のプレゼンターはリトアニア人であった。確かにバリ島で自然発生的に形成されたロシアン・コミュニティーとはウクライナ人をも包含する拡大‟ロシア圏„なのだろうと妙に納得した。