筆者はバリ島に10月17日~12月15日の2カ月間滞在した。12月1日までに見聞した亡命ロシア人については「ロシアン・コミュニティー潜入記(前半、後半)」の2回にわたり現地報告した。その後2週間でさらにロシアン・コミュニティーの実態が浮かび上がってきたので追加報告する次第。
なお、バリ島在住ロシア人の総数については諸説あるが、ウンガサンのゲストハウスで同宿したモスクワ出身カメラマンのN氏が事情通の在住ロシア人がしかるべき筋から聞いたという5万3000人が実態に近いと考える。ウクライナ侵攻直後のバリ島在住ロシア人が3万人という現地新聞の数字から、その後の日々のロシア人入国者の状況を加味すると5万人超が妥当と思われる。
ジャカルタのロシア大使館に在留届を出す亡命ロシア人はほとんどおらず、ロシア側からの統計数字はない。おそらくインドネシア入国管理当局の統計数字が5万3000人の根拠であると推測する。
変貌するオーストラリア人天国のチャングー
バリ島のチャングーはビーチリゾートとして開発されオーストラリア人を中心とする欧米系白人若者が毎晩乱痴気パーティーをする〝クレージー〟な地域として知られていた。12月3日、昼前にスポーツバーを覗くと大型画面でストックカーのレースとクリケットを中継していた。
30代のカップルがビールを飲みながら談笑していたので話を聞いた。ポールとサラは典型的なオージー(オーストラリア人の愛称)でありメルボルンから休暇でバリに来た。ちなみにスポーツバーの看板に出ていたAFLについて聞くとオーストラリアン・フットボール・リーグの略でありアメリカンじゃないと笑った。
このスポーツバーでは他にスーパーラグビー、ラグビー・チャンピオンシップなど豪州人向けのプログラムを中継している。つまりこのスポーツバーは豪州人御用達なのだ。2人は何度もチャングーに来ているが、今年はロシア人が圧倒的多数派となっていることに驚いたという。
チャングーの閑静な住宅街の一角に幼稚園から10歳までの子供を預かるプレイ・スクールがある。沢山の遊具を備えた室内遊戯施設があり、休日には一般開放している。受付嬢によると本来近隣のオーストラリア人家族の子どもたちを対象にプレイ・スクールを開いたという。しかしこのプレイ・スクールでも現在では半数以上がロシア人の子どもたちという。土曜日の朝、インドネシア人が運転する大型四駆で乗り付けたのはロシア人の両親と子供たち3人だった。
富裕層専門不動産業者のお得意様はロシア人と中国人
チャングーの目抜き通りに洒落た不動産屋があった。英語の屋号も洒落ており邦訳すると『贅沢な夢の隠れ家』となる。素敵な女子が1人で留守番をしていた。オーナーは英国人で海外の顧客回りをしているので、普段はセールスマネージャーのマニス嬢が1人で切り盛りしているという。
この不動産会社は海外富裕層の我儘な要望に応えるべく設立されたもので、主としてネットを通じて海外顧客から引き合いがくる。顧客の基本的要望に沿って物件を探し更に詳細要求に応じて改装・増築するという。チャングーの中心地では新規物件はほとんど出て来ないので、最近は近隣の新興ビーチリゾートで地主と交渉してヴィラを建設することが多いという。
オーナーは現在ヨットハーバーの建設を計画中とのこと。地中海などの高級リゾートでは大型ヨットや豪華クルーザーが停泊できるヨットハーバーが必ずある。何人かの富豪からの要望を受けて建設用地を物色している。