不動産投資の儲け話に群がるロシア人
12月4日。ハバロフスク出身のエンジニアY君34歳は同宿のアラフォーのロシア人夫婦と一緒に不動産投資の説明会に出かけた。翌日Y君に聞くと、プレゼンターはバリ島在住のリトアニア人で20人の参加者は全員ロシア人。案件はチャングー近くの新興ビーチリゾートに25年の長期契約で土地を借りてヴィラ15棟を建設して、一部を販売し残りをリースするという不動産投資プロジェクト。
バリ島のあちこちに不動産開発業者によるホテル、ヴィラ、ゲストハウスなどの開発プロジェクトの看板が出ており出資者を募っている。参考までにインドネシアでは外国人の土地所有は禁止されているので外国人投資家の場合は25年契約で土地を借りてホテルやヴィラを建てるのが一般的である。
Y君によると質疑応答の大半はこうしたインドネシアの法律的制約に関するものであったという。年率30%の投資収益が期待できるという触れ込みで参加者のロシア人は熱心に質問していたと。
投資セミナーの最前列に陣取った全身入れ墨のスキンヘッドの〝新ロシア人〟(ソビエト崩壊後に暴力でのし上がったロシアン・マフィアを意味する呼称らしい)が騙されまいと要所要所で怖い顔で詰問したおかげで、プレゼンターがバカ丁寧に説明してくれたので、Y君もインドネシアの不動産関係法律や取引慣行が理解できたと喜んでいた。Y君の友人夫婦は投資することを決めたそうだ。
バリ島の不動産投資に群がるロシア人は亡国の非国民なのか
ロシアン・マフィアやオリガルヒのように非合法にロシア国内で収奪した富を海外に投資するのは自己の保身が目的であろう。しかしY君の友人夫婦のように合法的に営々と貯めた資金を海外の不動産投資につぎ込むというのはロシアという国家の将来を見限ったということであろう。
ウクライナ侵攻後に国外脱出したロシア人は1600万人とも報道されているが、持ち出した資金のうち海外に投資される金額は莫大であろう。国民の資産が国家の再建に向かわず海外に資本逃避する国家に未来はない。
筆者は1987年から3年半イランに駐在した。イランでは1978年のイスラム革命で数百万人もの富裕層が財産を持って米国や欧州に亡命した。その後イランの革命政権は再三にわたり富裕層の帰国と国内投資を呼びかけたが、当然ながら亡命イラン人は革命政権の要請を無視した。
現在でも多少なりとも財産を持つ階層は海外投資に熱心であると聞く。イラン経済が何年経っても低迷している所以である。