フィリピンでは放浪ジジイが初対面の人と少し話をすると必ず「ガールフレンドを探しに来たのか」「フィリピーナ(フィリピン女性)のガールフレンドを訪ねてきたのか」と聞かれる。どこへ行っても、同じ質問なのだ。
「フィリピーナじゃない、観光(tourist)だ」と答えると相手は放浪ジジイをまじまじと見て怪訝な顔をする。それにしても挨拶の常套句のように「フィリピーナが目的か」と聞かれるのは、日本人はじめ外国の中高年オジサンのフィリピン訪問目的が「フィリピーナ」であることが一般常識なのだろう。
マニラで見たフィリピーナと日本人男性の光景
7月17日。マニラの高級商業地区であるマカティーのモールにある日本書店でのこと。店内に30台半ばのすらりとした知的風貌の日本人男性がいた。隣に彼の連れらしきフィリピーナが佇んでいた。彼女はハッとするような美貌で洒落たワンピースが似合うモデルのようなスタイル。
彼女は男性の恋人か奥さんのようで男性の腕に手を添えて帰っていった。彼女は男性に首ったけオーラ満開だった。美男美女のカップル。映画のワンシーンを見ているようだった。心底羨ましいとジジイは嫉妬した。
7月19日。ビザ延長手続きのためマニラのサンチャゴ要塞近くの入国管理事務所(immigration office)へ出かけた。英語の申請書に書き込んでから審査を待っていた。白人のおじいさんがフィリピンの中年女性とぽつねんと待っていた。日本人の中高年男性もいた。この男性の隣で女性が英文申請書に男性に代わって書き込んでいた。男性は英語がダメのようで女性に万事お任せ。
白人のおじいさんも日本人男性も無表情でつまらなそうな雰囲気が漂っていた。おそらく2人とも若いころは同じく若かったフィリピーナと情熱的な恋をしたのだろう。情熱そして感情そのものが経年劣化してパートナーに対しても、そして自分自身に対しても無関心になってしまったのだろうか。南太平洋を舞台にしたサマーセット・モームの短編小説を思い出した。
地方で活躍する解体業者のフィリピーナ嫁
7月22日。バターン半島のバランガの宿でドライバー兼ツアーガイドのレイと同宿になった。30台前半のレイはコロナ前の日本で解体作業の仕事をしたという。レイの妹の友人が日本人の解体業者と結婚して名古屋の近くに住んでいる。その伝手で来日したのだ。レイはスマホに入っている写真やビデオを見せながら解体業の旦那とフィリピーナについて説明してくれた。
旦那は50前後か。その筋の男に見えるいかつい風貌。フィリピーナは20代後半か。色白で華奢で可愛い。アイドルっぽい容姿。旦那は解体作業だけでなく解体により発生する金属類などを売買する商売もやっている。2人には3歳くらいの男の子がいる。
しばしば一家は小旅行して出先の写真やビデオをフェイスブックなどSNSにアップしている。彼女はお洒落してメークするとアイドルそのもの。テーマパーク、雪の降る温泉、海鮮市場などフィリピン人には珍しいスポットからタガログ語で実況中継している。浴衣や着物もさまになっている。まさに映えている。
驚いたのは解体作業現場の動画だ。彼女はユンボ(油圧ショベル)に乗って解体作業をしながらギャル口調で現場の多国籍の作業員たちを指揮していた。「ハヤクシナキャダメー!ユー、ハリーハリー」。英語・タガログ語・名古屋弁のチャンポンだ。旦那の勧めで重機の免許を取ったという。
強面の旦那の男の甲斐性&フィリピーナの陽気な頑張りにアッパレ! である。こんなフィリピーナの嫁が増えれば世の中が明るくなる。
東南アジアで出会う結婚しない結婚できない症候群の日本男子
東南アジアを放浪しているとしばしば結婚から遠い日本男子に出会う。インドネシアでは九州からサーフィンにきた40代半ばの公務員の男性に遭遇。波のいい朝にサーフィン、午後は昼寝、そして夕方から女の子を探しに行く。「日本で相応しい結婚相手が見つからないので、東南アジアのリゾートでサーフィンしながら現地の女の子と遊ぶのが自分にとって最高の贅沢です」と心情を吐露していた。
タイでは東京の大きな酒屋の後継ぎとなるアラフォー男性に出会った。親から店を継ぐように懇願された。何人か付き合った女性はいるが、酒屋の嫁になることを敬遠され結婚には至らなかった。「年に数回1週間くらいアジア各地を旅しますが、目的は女の子です」と悪びれず語った。
ボラカイ島のホワイト・ビーチは白人「オジサン」天国
ボラカイ島には9日間滞在して毎日朝夕2回ビーチを散歩した。たくさんの白人の中年男性がフィリピーナと恋人つなぎして堂々と歩いている。日本や韓国のオジサンは夜はともかくとしてお天道様の下で堂々と現地の女の子と手をつないで歩くようなことをしない。タイのパタヤ・ビーチなどアジア各地で、白人オジサンが堂々と恋人つなぎで歩いているのを目撃しているので、東西文化の違いであろう。事情通の食堂の女将によると夜の女性たちがいるバーがあり、客は気に入った女性がいれば連れ出せるそうだ。
ホワイト・ビーチにはマッサージ屋も多く放浪ジジイが散歩していると呼び込みが盛んに声を掛けてくる。
KTV、JTVを知らないなんてオジサンは遊びしない人?
9月7日。パナイ島からバタンガスに移動するためフェリー乗り場のベンチで待っていた。前のベンチに若夫婦と4歳の男の子の家族がいた。30歳くらいの旦那が日本人かと聞いてきた。マニラのKTVでDJをしているという。
そのうちに20代後半と思われる金髪に髪を染めたかなり美人の奥さんが上手な日本語でしゃべり始めた。日本で仕事をした経験があるかと聞くと日本に行ったことがないという。不思議に思って聞くとマニラのKTVで働いているという。どこかのテレビ局かと想像して関西テレビで働いているのと聞いたら、
キョトンとしている。なんどもKTVまたはジェーティービーというので「Japan Travel Bureau、つまり旅行代理店で働いているの?」と聞くと全然違うとのこと。面倒くさくなったのか彼女は「アナタKTV、JTVシラナイ。アナタ遊びシナイヒトネ」と笑った。
後日ネット検索したらJTV、KTVは女の子を連れだせるカラオケバーが語源らしい。Jは日本人経営、Kは韓国人経営を意味するが、現在では一般に女の子を連れだせるクラブやバーの総称のようだ。美人奥さんはクラブのチーママだろうと推測。グーグルマップで検索するとマニラの歓楽街マビニ通り周辺に集中している。
マニラの歓楽街に氾濫するKTV、JTV
9月10日。小雨の中、昼過ぎのマビニ通りを歩く。それらしいクラブやバーが軒を並べている。KTV、JTVという看板も見える。ざっと数えたところ100軒くらいあるのではないか。ほとんどの店は開店前で閉まっておりマビニ通りは閑散としていた。地元の人によると夕方7時には通りは車で大渋滞になるという。
近所のレストランの支配人に聞くと「マニラの日本人や韓国人駐在員、本社からの出張者などビジネスマン御用達の夜の社交場ですね。要は需要(オジサンたち)と供給(フィリピーナ)があるので繁盛するわけです」
確かに先進国と途上国の所得格差がある限りこうした需要と供給が発生する。思い出すだけでもキューバのイタリアおじさん、サンクトペテルブルクのフィンランドおじさん、中国の日本おじさん、スペイン南部のドイツおじさんなどなど。
残念ながら需要と供給の法則は不滅なのだろうか。フィリピーナたちがマニラの美男美女カップルや解体業者夫婦のように幸せになることを願うばかりだ。