2024年12月22日(日)

古希バックパッカー海外放浪記

2022年12月30日

ウラル山脈の秘密都市出身のジェリーは平均的な兵役逃れの若者

ロシアン・ビレッジであるウンガサンのビーチ

 12月9日。朝食をとろうとゲストハウス近くの外国人向けのカフェに行った。テラス席の先客は、ジェリーと名乗った。28歳のジェリーは、部分的動員令発令後の10月初旬に出国しタイ経由で1カ月前にバリ島に到着。

 出身地はウラル山脈の麓の小都市。ウラル山脈のあたりではニコライ二世一家が銃殺されたエカテリンブルグが有名であるが、そのさらに南という。ウラル山脈の西側あたりはスターリン時代に軍需工場を移転したので、いわゆる軍事秘密都市があったと記憶していた。ジェリーはなんとその秘密都市の一つの出身。

 現在でも住民と軍需工場職員以外は立ち入りが禁止されている。ジェリーは高校卒業して20歳頃までこの都市に住んでいた。高校時代からシーシャ(水煙草)カフェでアルバイトを始め、卒業後は雇われマネージャーとして毎日14時間以上働いたが毎月350ドル程度にしかならなかった。最近は日本でもお洒落なカフェとしてシーシャ・バー、シーシャ・カフェが人気になっているが、ロシアでは伝統的なスタイルのカフェであるという。参考までに2019年のロシア政府統計ではロシア人全体の平均月収が4万1000円である。

 その後モスクワに出て国際物流会社の集配センターで梱包や積み込みの作業に従事。半年前に30歳のITエンジニアの兄がロシアを出国。その後兄はバリ島に辿り着いて、4カ月前にウンガサンにヴィラを一年契約全額前払いで借りた。ジェリーも現在、兄とヴィラをシェアしている。

亡命ロシア人はどうやって生活費を稼いでいるのか?

 ジェリーはバリ島に来てからロシア語ネットワークで職探しをして、ロシア企業のネット・セールスの仕事を得たという。モスクワ時間に合わせて週日はバリ島時間午後2時~午後11時までパソコンに向かって仕事。顧客とはパソコンで無料ネット電話を通じて会話する。顧客から随時電話で照会が来る。しかし毎日9時間の定時デスクワーク勤務はモスクワの集配センターでの肉体労働と比較したら天国とのこと。

 午前中は散歩したりサーフィンしたり読書したりと自由に好きなことができるので‟人生で最高に幸福な生活„と満面に笑みを浮かべた。

 ジェリーの月給はロシアの企業からジェリーのルーブル口座に振り込まれる。兄がビットコイン口座を保有しており、ジェリーが自分のロシアのルーブル口座から生活費を兄のルーブル口座に送ると兄が相当額をビットコイン口座から引き出して、相当額のインドネシア通貨をジェリーのインドネシア通貨口座に振り込んでくれるという。このようなビットコイン口座を介した方法での現金確保がバリ島のロシア人では一般的とのこと。ハバロフスク出身のY君も同様の仕組みでルーブルを現地通貨に換金していたことを思い出した。

デジタルワークのスキルのない若者を救済するロシアン・ビレッジの単純労働

 ジェリーによるとロシアン・コミュニティーのネットワークには様々な求人情報があるという。まったくスキルのない若者はロシア料理店やロシアン・カフェなどでロシア人ゲスト相手のバーテン、ウェイター、ウェイトレス、料理人などとして働いている。

 さらにはロシア人富裕層のヴィラでサーバント、メイド、運転手などとして働いている若者も増えているという。

人生で初めて知った平穏な暮らしという幸福

 ジェリーは、いわゆる地方出身の高卒ロシア男子であるが、たった2カ月で訥々ではあるが上記のような興味深い話を英語で伝達できるというのは中学・高校で真面目に学習した成果であろうと想像した。

 余談ではあるが途上国で観光客を相手にしている若者は概して傍目には達者な英語をしゃべるが、文法や単語の基礎がないので中身のある会話は成立しない。ジェリーと話していてやはり文法・読み書き中心の日本の英語教育は間違っていないと確信した。文法・読み書きという基礎があれば、たとえ英会話の経験が全くなくても数カ月の実践会話で外国人と有益な交流ができる。

 ジェリーはバリ島に来てから自分の人生観が変わったという。明日への不安がなく、人目を気にせずに(ロシアは相互監視社会とジェリーは強調)、静かに平穏に毎日を過ごせる幸せを満喫しているという。

 ロシアにいる時やロシア出国後も絶えずロシアとウクライナに関するニュースの収集に神経を使っていた。ところがウンガサンのヴィラに落ち着いてからそうしたニュースへの関心が薄れてきた。現在では週末のロシアの独立系メディアのネットニュース番組で一週間分のニュースをまとめて見るだけになったという。


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