2023年2月2日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月25日

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 2023年1月5日付ワシントン・ポスト紙(WP)は、同紙コラムニスト、セバスチャン・マラビーの「中露に同時対応するために如何にして米国は同盟国の協力を得られるか」との論説を掲載し、対中露強硬措置に対する同盟国の支持を得るために、米国は同盟国間の自由貿易推進に舵を切るべきだと論じている。

 バイデン政権は、冷戦時代のように敵の孤立と友情強化のため自由貿易を進め、グローバリゼーションへの姿勢を変えるべきだ。

 昨年10月のバイデン政権の半導体禁輸措置は、中国半導体企業を対象とし、米国産などの先進半導体禁輸、中国の半導体生産に必要な機器と生産能力規制、米国技術者などの中国企業就労禁止など包括的である。が、この成否は欧州とアジアの協力次第だ。

 米国が貿易自由化の見通しを示せれば同盟国の考えを変えられるだろう。最近ショルツ独首相が米欧貿易強化を呼びかけたが、バイデン政権は東アジアでも同様の戦略を追求し、欧州連合(EU)との環大西洋貿易投資協定(TTIP)と、環太平洋経済連携協定(TPP)双方の交渉を進めるべきだ。

 問題は、バイデン政権がクリントン敗北は反グローバリゼーションの結果と見ていることだ。しかし、米国は、米国労働者に悪影響を与える「中国中心のグローバリゼーション」と、米国が支持すべき他の形態の自由貿易を区別すべきだ。中国の急成長は製品輸出主導で、その拡大速度と規模の大きさで、先進国労働者に打撃を与えるグローバリゼーションだった。漸進的拡大なら先進国の失職者はより生産性の高い職に就いて国内総生産(GDP)拡大に繋がったが、中国の世界貿易機関(WTO)加盟後の急速な輸出拡大で失職者の再就職が難しくなり、米中貿易の不均衡で一層悪化した。

 一方、賃金上昇と老齢化で中国中心のグローバリゼーションは終わろうとしており、米国の対応も変わるべきだ。中露に対抗した民主主義結集が必要な今、米国の成長と同盟の深化に繋がる地域間貿易を進めるべきだ。大多数の米国人は、貿易は経済に良いと考えている。新形態の同盟国間のグローバリゼーションは米国の富と安全保障にプラスだと説明すべきだ。

 成功すれば、ロシア封じ込め、中国抑止、世界経済への新アプローチという3連勝で、素晴らしいレガシー(遺産)になろう。

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 上記マラビーの論説は、米国の市場開放政策への転換の必要性を、地政学的視点からのみならず、経済合理性からも説得的に説明する逸品である。

 急速な製品輸出拡大故に米国人雇用に悪影響を与える例外的形態の「中国中心のグローバリゼーション」と、米国経済活性化と同盟国の支持を通じた安全保障強化に繋がる「同盟国を中心としたグローバリゼーション」の2つを区別する議論は、大変に分かりやすい。

 対中抑止のための半導体禁輸を含む強硬策に対する同盟国の支持を得るためには、貿易自由化が重要な手段となるというのは、正にその通りだろう。

 賃金上昇や老齢化を背景とした中国の成長・輸出増加の鈍化により、中国中心のグローバリゼーションは終わりを迎えつつあり、それに応じて米国のグローバリゼーションへの対応も、本来自由貿易が米国にもたらす利益を考えて、変えていくべきだとの主張は説得的だ。

 さらに、対応策として、欧州との間のTTIPのみならず、アジアにおける包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP、TPPの新協定)の推進も挙げていることには大変に勇気づけられる。これは、アジア諸国は、市場開放措置=米国市場へのアクセス向上なしには、米国のアジア回帰を決して本気にしないという現実に鑑みれば、不可欠な対応だ。

 この論説が言うような議論が主流となれば、本年秋の米国主催によるサンフランシスコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合は、CPTPPへの米国回帰を打ち出す、最も適切で効果的な場所になるだろう。

 結局、一番のネックはバイデン政権の陣容自体ではないか。2024年に大統領選挙を控え、この論説が指摘するように、2016年の大統領選挙でのクリントンの敗退は、選挙のたびに勝利政党が入れ替わる「スイングステート(揺れる州)」におけるグローバリゼーションへの反対が理由だと考えている人たちが、現在の政権の中枢にいる。そして、おそらく、バイデン大統領自身にも、自由貿易に舵を切ることの政治的リスクが「従来の常識」として染みついているのだろう。

 このような状況下で、誰が「鈴をつける」のかが最も深刻な問題であるが、その一人足り得るのが主要7カ国(G7)の議長である岸田総理ではあるまいか。日本は、アジア諸国の本音を米国に対して説得的に伝えることのできる数少ない国であるし、G7議長国はそのためにうってつけの立場である。

 説得のための理論構成において、この論説は大変に有用だと思う。バイデン政権の背中を押すためにも、今後同種の論考が続々と出てくることを期待したい。

  
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