2023年2月5日(日)

家庭医の日常

2023年1月24日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

レカネマブ臨床試験の概要

 「Clarity AD」(ADはアルツハイマー病の略)というニックネームで呼ばれるレカネマブの第Ⅲ相臨床試験の概要は、ごくごく簡単に書くと次の通りである。

 北米、ヨーロッパ、アジアの約200の研究施設に登録する50歳〜90歳の早期アルツハイマー病患者約1800人をほぼ均等に2群に分けて、一方にレカネマブ、他方にプラセボ(比較対照試験をするために作られた偽薬。見かけはレカネマブと同じだが有効成分を含まない)をそれぞれ2週間ごとに静脈注射で投与した。そして、投薬開始前と18カ月後に、以下に述べる方法で認知機能を測定してその変化量を2群間で比較したのである。

 認知機能を測るには多くの方法があり、主として認知症の診断目的に使われるものもあれば、重症度を評価してその経時的な変化を知るためのものもある。今回の研究で用いられた測定方法は後者で、The Clinical Dementia Rating - Sum of Boxes(CDR-SB; 臨床認知症評価尺度の合計点数)と呼ばれる。

 「記憶」「見当識」「判断力と問題解決」「地域社会活動」「家庭生活および趣味・関心」「介護状況」の6領域について、それぞれ「0(なし)」「0.5(疑い)」「1(軽度)」「2(中等度)」「3(重度)」の5段階で評価し、それらの点数を合計したものがCDR-SBである。18点満点で、0.5〜6点が早期アルツハイマー病に相当するとされる。通常は、CDRによる認知機能評価のトレーニングを受けた専門職によって、本人と家族・介護者などからの聞き取りとその他の臨床データを考慮して採点される。

レカネマブの有効性と臨床的意義

 レカネマブの効果については、「認知機能低下(症状悪化)を27%抑制できる」というのが大方の日本の報道である。だが、その認知機能(症状)がどのように測定され、どの程度意味のある差なのかを伝えている報道は、現時点では見つけられなかった。

 認知機能の測定については前述のCDR-SB が用いられたわけだが、その点数の差についての疑問に答えるには、NEJMに掲載されたオリジナルの研究論文、そしてそれと関連する若干の資料を読む必要がある。

 今回の「Clarity AD」研究のメインの結果は次の通りである。

 まず、投薬開始前のベースラインの測定では、レカネマブ投与群、プラセボ投与群ともにCDR-SBは3.2点だった(平均値、以下同様)。それが18カ月後にはベースラインのCDR-SBから点数が悪化し、認知機能の低下幅はレカネマブ投与群で1.21、プラセボ投与群では1.66だった。レカネマブ投与群の方が認知機能の低下幅が小さく、それだけ症状悪化を抑えていると解釈される。

 両群の低下幅の差は0.45である。この0.45がプラセボ投与群での低下幅1.66の27%であることが、「認知機能低下(症状悪化)を27%抑制できる」という報道の根拠になっているのだ。統計的にも有意な差であり、レカネマブの効果が証明されたかたちだ。

 だが、たとえ統計的に有意な差であっても、この0.45という差は実際の患者の生活でどの程度意味があるものなのか。CDR-SBで何点差があれば臨床的に意味のある治療効果なのかについては、実はまだ一定のコンセンサスは得られていない。

 「Clarity AD」研究の研究者たちは、0.373以上の差を治療効果として想定していたという。だが、CDR-SBが0.5〜6点の範囲内での早期アルツハイマー病では、臨床的に意味のある差として0.5以上は必要だという意見もある。


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