2023年1月30日(月)

家庭医の日常

2023年1月24日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。
(Iván Jesús Cruz Civieta/gettyimages)

<本日の患者>
T.T.さん、76歳、女性、老舗和菓子屋店主。

「この頃は、お店に来る人の名前がわからなくなってきちゃって。昔は、今年はあそこのお家でお嬢ちゃんが初節句だからこのお菓子、隣のお宅は来月息子さんが卒業式だからあのお菓子、という具合に一年中お菓子とお客さんの組み合わせがわかってたんですよ。このままボケちゃうんじゃないか、それが一番心配です!」

 T.T.さんは、名前を聞けば大抵の人は「ああ、あのお店ね」とわかる、地元では有名な老舗和菓子屋のおかみさんだ。創業者から四代目のご主人を6年前に肺がんで亡くしてからは、五代目になる息子のK.T.さんとお嫁さんのS.T.さんにお店は任せているが、今でもほぼ毎日お店に出てお客さんのご機嫌を伺ってあれやこれやお菓子を紹介している。和服が似合い清楚で凛とした中にも温かみのあるT.T.さんの立ち振る舞いは、私が思い描く和菓子屋のおかみさんにぴったりだ。

 私の診療所へは、ご主人を亡くした後のうつ状態を心配した家族に連れられて受診したのが最初で、その時は打ちひしがれた様子で、今のT.T.さんより一回りも二回りも小さく老けて見えたものだ。悲嘆ケアをしながらその他の原因を探索して、結局慢性甲状腺炎(橋本病)による甲状腺機能低下症があったため、その後は甲状腺ホルモンを処方しながら、年4回の定期受診時に健康維持・増進についていろいろとアドバイスをしている。

「ところで先生、なんか認知症に効くお薬ができたんですって?私も飲んでみようかしら」

「ああ、レカネマブのことですね。ニュースが早いですね」

 アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」については、昨年秋ごろからその効果と安全性についての速報的な報道により開発した製薬会社エーザイの株価が大きく変動するなど社会的にも注目されていた。その第Ⅲ相臨床試験(国の承認を得るため、有効性と安全性を確認する治験の最終段階として多数の患者を対象に行われる)の詳細な結果が発表されたのは、昨年11月29日に米国サンフランシスコで開催されたアルツハイマー病臨床試験学会と同日に発行された米国の医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』掲載の論文(現在は今年1月5日付として掲載)だった。

 今年に入って、1月6日に米国食品医薬品局(FDA)がレカネマブを迅速承認し、日本でも1月16日、厚生労働省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)にレカネマブの承認申請がされ、メディアに取り上げられる頻度も増してきた。


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