2024年12月22日(日)

都市vs地方 

2023年1月30日

機能が重複した制度の問題点

 このように、いくつもの制度を並立させて東京圏から地方への人口移動を促しているのが現状であり、そこには以下のような問題がある。まず、そもそも東京圏のみを対象にして地方への人口移動を促すべきなのかが未知数である。

 大都市に人口が集中しており、その典型が東京圏であることは間違いないが、他の大都市、例えば九州であれば福岡に人口は集中している。福岡への集中は問題視せず、東京への集中のみを抑制しようとするのはなぜであろうか。少なくとも、著者は、東京のみが過大であることを示した研究を目にしたことはない。

 人口流出に悩まされている地方がその流出を問題視するのは当然であるが、それを日本全体の問題ととらえるべきかどうかは別問題である。人口集中にはそれ自体でメリットとデメリットがある。

 人口集中は、人や企業のコミュニケーション、情報や知識のスピルオーバー、財やサービスの多様性などを通じて、意図せざるメリットを生み出す。これを集積の経済と呼ぶ。この集積の経済が存在することはさまざまな研究で示されている。一方、通勤の負担や混雑などのように、人口集中による意図せざるデメリットも存在しており、こちらは混雑の不経済と呼ばれる。

 日本全体として大都市への人口集中を問題視すべき場合とは、この集積の経済と混雑の不経済のバランスから判断して、大都市が大きくなりすぎている場合であるが、東京一極集中の議論において、その定量的な検証が言及されることはほとんどない。東京が過大であることがあたかも常識であるかのように仮定され、議論されているように思える。

 これだけ多くの制度を用意しているのであるから、少なくとも既存の研究くらいは参照し、現状どの程度東京が過大と考えられるのか、どこまで地方への人口移動を促す政策をとるべきかの目標を明らかにしてほしい。

 その上で、同じような効果を持つ制度を整理して、役割の重複が無いようにして、ある制度が新たな問題を引き起こさないように制度を設計するべきである。ここで取り上げただけでも、地方交付税により財政面で地方を支援して、その人口移動への効果も判然としない状況で、ふるさと納税を導入してさらに財源移転を促進して、不交付団体に新たな問題を引き起こし、移住支援、起業支援事業でさらに東京から地方への人口移動を促している。

 このような機能の重複の下では、どの制度が何にどこまで効果があるか識別するのが困難であり、政策の評価が難しくなってしまう。次々と制度を継ぎ足すのではなく、全体で整合的な制度設計を期待したい。

 
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