政府は子育て世帯の地方への移住を促進するため、地方創生移住支援事業の子どもに対する加算金を1人当たり30万円から100万円に増額する方針を決めた。この事業は、地方の活性化を目指した地方創生の一環で、地方創生起業支援事業とともに、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県から成る東京圏から地方への移住を支援するものである。
地方創生移住支援事業は、東京23区に在住または東京圏から東京23区へ通勤している人が、東京圏以外の道府県または東京圏の条件不利地域へ移住し、一定の条件を満たす場合に、最大100万円を支援する制度である。18歳未満の子供と移住する場合は一人につき最大30万円が加算される。
地方創生起業支援事業は、東京圏外での起業に対して、最大200万円を支援する制度である。東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域に居住して決められた期間内に開業や法人の設立、事業承継を行うなど、一定の条件を満たす場合に支援を受けられる。
こうした移住への支援事業は本当に東京一極集中の解消や地方の活性化に寄与するのであろうか。さらに言えば、こうした支援事業が本当に必要なのであろうか。
本稿では、移住に対する支援がどのような効果をもち、どういった場合に社会のためになり得るのか、こうした議論において注意すべき点はなにか、を整理してみたい。そのために、まず、人口移動の基本的な役割を確認しておこう。
人口移動への介入は必ずしも望ましくない
人口移動は、基本的には、移動しないよりした方が自分にとっては良い、という人々の意思決定の結果である。自由に人々が移動することで、人と場所の適材適所が達成される。しかし、現実には、移動にも引っ越し費用や人間関係の再構築、転職などの費用がかかるため、移動は一部制限されざるを得ない。
ここに政府介入の余地が生まれる。もし政府が極めて有能で、人々の好み、能力、置かれている状況をかなり正確に把握でき、それを反映した政策ができれば、政府が人口移動を左右する政策で人々の暮らしがよくなるかもしれない。しかし、もし政府がそこまで有能でなければ、人口移動への介入は人々にとって好ましくない方向に事態を向かわせてしまう可能性がある。
地方への移住支援事業にあてはめて考えてみると、この政府介入は、移動費用を特定の方向の人口移動のみ軽減する措置である。あらゆる人口移動を円滑にするのではなく、東京から地方への移動のみ円滑にすることを目指している。
そのため、もし地方に住みたいと考えている東京圏の住人が移住先で満足のいく仕事先を見つけられるのであれば、支援が社会の厚生を上げることになろう。その可能性の限りにおいて、地方への移住支援事業は正当化されうる。もしその可能性が低いのであれば、この事業は効果が疑わしいだけでなく、移住の誘因をゆがめ、地方への不必要な移住を誘発させて損失を生む可能性すらある。