2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2023年2月17日

侵攻後1年でロシアの首脳会談が劇的に変化

 プーチン大統領はこれまでも国際社会の中でロシアの存在感を示すため、欧米に与しない独自外交を繰り広げてきた。首脳会談では相手国との貿易取引を活発化させ、軍事やエネルギー、食糧分野などでの2国間関係を強化することを目的にしてきた。

 ロシア軍の最高総司令官でもあるプーチン大統領はウクライナ侵攻開始後、クレムリンに止まって作戦指揮に集中し、一見して外交を控えているような感覚に陥るが、実際はそうではない。むしろ真逆で侵攻前に比べて、各国首脳との会談を増やしている情勢にある。

 このたび、ロシア大統領府の公式発表をもとに、プーチン大統領がどの国の首脳と直接会って、または電話会談によって協議を行っているのかの実態を調べてみた。

 2020年以降、コロナ禍の影響で直接会談の回数は減ってしまったが、侵攻を開始した22年2月24日以降は、特定の国との首脳会談の回数も増え、相手国の傾向にも大きな変化が現れている。

 重要性を鑑みて、直接会談を3ポイント、電話会談を1ポイントとして総ポイントを計算し、21年2月からの侵攻前1年と22年2月からの侵攻後1年の状況を比較してみた。

 それによると、侵攻後も侵攻前も旧ソ連諸国で構成される独立国家共同体(CIS)の国々がランキングトップ10を占めた。ロシアではCIS諸国のことを「近い外国」と呼ぶが、従来のロシアの勢力圏を保とうと、頻繁に首脳会談を重ねていた。

 このうち、侵攻後にプーチン大統領が直接会って最も首脳会談を重ねた相手がアルメニアとベラルーシだった。アルメニアは隣国アゼルバイジャンとの領土問題を抱え、プーチン氏の調整力を頼ったため、ポイントが増えた可能性がある。

 一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領と頻繁に直接会談を行っているのは、ウクライナ侵攻をめぐる協力体制のあり方を討議しているためだろう。プーチン氏は昨年末にラブロフ外相ら主要閣僚を引き連れてベラルーシに飛び、首都ミンスクで会談を行っている。

 これに対し、産油国のトルクメニスタンは侵攻前の19位から侵攻後は6位に大幅に順位があがった。協議内容が全て明らかになっているわけではないが、欧米などの露産石油・天然ガスの受け入れ制限に伴う両国間の連携体制が議題テーマにあがっている可能性がある。

 プーチン大統領との首脳会談が増えていることは、従来のCIS間のパワーバランスに微妙な変化が生じていることを意味する。

 同様に、プーチン大統領は中近東の資源国に積極外交を仕掛けていることも明らかになった。

 アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、アルジェリア、イラクの4カ国は、侵攻前は会談数ゼロだったのに、侵攻後、プーチン大統領は首脳会談の相手に選んでいる。ウクライナ支援・対露制裁国側にまわらないよう要請している可能性がある。特にUAEとは直接1回を含む計4回の会談を行っている。

 サウジアラビアのムハンマド皇太子との会談は侵攻前の1回から5回(いずれも電話会談)に増えている。カタールは1回から2回に回数が増えただけだが、18年にサッカーワールドカップ(W杯)開催国だったロシアが、22年大会のホスト国のカタールに対して支援を表明したことで、直接会談が実現することとなった。

 カタールのタミム首長は22年10月13日、ロシアが加わった国際会議を催したカザフスタンを訪れ、プーチン氏と直接、協議をした。CNNによれば、現地の情報筋は両国間の緊張緩和が狙いだといい、ロシアとカタールが欧米主導の対露制裁網にくさびを入れようとしていることがわかる。


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