2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、「3日でキーウを落とす」とのロシアの目論見を覆し、開始から10カ月を過ぎ新たな年を迎えても激戦が続く。ウクライナは欧米諸国の軍事支援をバックにロシアと互角以上の戦いを続けており、現時点でロシアに妥協する考えはない。一方のロシアも、先進7カ国(G7)などによる経済制裁に耐え、強権手法で国内の反戦機運を抑え込んでいる。両国は落としどころのない泥沼に足を踏み入れつつあり、23年もこの構図は容易に変化を見せない。
しかし24年にはロシア、ウクライナに加え、ウクライナの最大の支援国である米国でも大統領選挙が予定される。大統領選に向け、各国の指導者の思惑は複雑に交差し、その方向性は戦況にも影響を与えうる。23年は後半にかけて、事態が一気に流動化する可能性も否定できない。
様変わりしたロシアの年末
「昨年は、困難かつ必要な決定を下した年だった。その歩みは、ロシアに完全な主権をもたらすものだった」
「われわれは今日、ロシアの歴史的領土に住む人々を守るために戦い続けている。祖国を守ることは、われわれの先祖、そして子孫に応えるための、聖なる戦いなのだ」
ロシアのプーチン大統領が1月1日、国民向けに発した新年のビデオメッセージは例年とは全く異なるものだった。通常ならば、クレムリン(大統領府)をバックに撮影される映像は、南部にあるロシア軍部隊の拠点で撮影され、大統領の背後には神妙な表情のロシア兵らが整列していた。
プーチン大統領の目は憂いを帯び、国民を思いやる国父のような立ち居振る舞いだったが、自らが仕掛けた戦争が泥沼化し、自軍に10万人ともいわれる犠牲者が出る中、その言葉には国民に戦争支持を強要する意図がにじんでいた。「裏切り」を糾弾する言葉もあった。
例年、クレムリンでは大晦日の夜に盛大な花火が打ち上げられ、人々は未明まで街に繰り出してロシアの新年を祝う。しかし今年は花火が自粛され、街中の様子は大きく様変わりした。年末恒例の大統領による大型記者会見は中止され、人々は否が応でも自国が戦争を行っている事実を突きつけられた。
ただ、そのような状況がロシアで反戦機運を高め、早期の停戦に導く可能性は低い。昨年、欧米諸国による広範な金融・経済制裁に直面したが、主要物資の輸出禁止については、第三国を経由して輸入する手法が抜け穴となった。輸出収入の45%を占める原油・石油製品をめぐっては、主要輸出先の欧州連合(EU)諸国が相次ぎ輸入を停止したものの、価格が暴落したロシア産原油をインド、中国が買い漁り、ロシアの輸出産業を支えた。
戦争開始直後にはマイナス10%になるとみられていた22年のロシアの経済成長率は相次ぎ上方修正され、国際通貨基金(IMF)は直近の予想で、マイナス3.4%に落ち着くと推計している。新型コロナウイルス禍で各国経済がプラス成長に転じるなかでのマイナス成長は厳しい結果ともいえるが、ソ連経済の崩壊を体験し、さらに反政権運動が徹底的に取り締まられるロシアにおいて、この程度の経済悪化が大規模デモなどにつながる可能性は低い。