2024年4月25日(木)

プーチンのロシア

2023年1月5日

戦場では苦戦

 ロシア軍は一方で、戦場では苦戦が続く。侵攻開始から間もなく、東部ハリコフ州や首都キーウ周辺の北部地域などを次々と占領下に置いたが、ウクライナ軍の反撃で昨年4月にはキーウ近郊から撤退し、欧米支援の長距離多連装砲などの装備が実戦配備されたとみられる9月以降は一気にハリコフ州も奪還された。民間の軍事情報サイト「Oryx」によれば、ロシア軍は戦闘で喪失した装備品数は8000点以上にのぼり、ウクライナ軍の3倍を超えている。

 軍事的な成果を出す圧力にさらされるプーチン政権は、ウクライナ東部ドネツク州の要衝、バフムトなど局地的にポイントを絞り、民間軍事会社「ワグネル」の要員も投入して戦局の打開を図ろうとしている。交通拠点のバフムトを陥落できれば、ドネツク州全域の制圧が視野に入り、プーチン政権は一定の戦果を誇示できるほか、ワグネルの創設者であるプーチン大統領側近のオリガルヒ、プリゴジン氏にとっても大きな成果となるためとみられている。

 ただ、バフムトをめぐっては、軍事的意義以上に政治的な意義で戦闘が行われているとの指摘もある。東部の戦線からは、不釣り合いな規模の人員、装備の損失を被ってでも戦果を出そうとするロシア軍の実態が浮かび上がる。

綱渡りのウクライナ

 攻勢をかけるウクライナ側も、事態の打開は容易には見えない。

 「われわれはこの戦闘において同盟国であり、来年が転機になることを知っている。ウクライナの勇気と米国の決意が、私たちの共通の自由という価値を守る年になるのだ」

 昨年12月末、電撃的に訪米したウクライナのゼレンスキー大統領は米議会で繰り返し、両国の協力の重要性を訴えた。演説は幾度もスタンディングオベーションを受けたが、一部の共和党議員は欠席しており、ウクライナとの米国の距離感が感じられた。

 戦時中の国の大統領が危険を冒してでも米国を訪れなければならない現状に、ウクライナの置かれた厳しい現状が伺える。

 米軍のミリー統合参謀本部議長は11月、ロシア軍とウクライナ軍の死傷者がそれぞれ、10万人以上にのぼるとの推定に言及した。ウクライナ軍の総兵力は28万6000人と推計されており、ミリー氏の指摘が事実であれば、その3分の1の規模の人員が死傷したことになる。実際には90万人規模の予備役も招集されているとみられ、各国の軍務経験者が義勇兵として参加しているが、損失が巨大であることは疑いようがない。

 それでもウクライナ軍が驚異的な粘りを見せることができたのは、多くのウクライナ人は「敗北」がロシアへの隷属に直結すると考え、戦争継続を支持しているのと、西側諸国が兵器を供与し続けているからにほかならない。その中心は米国だ。

 キール世界経済研究所によれば、これまでのウクライナへの軍事・経済支援額は米国が約479億ユーロで、EU全体約350億ドルの1.5倍近い規模に達している。共和党議員らが「ウクライナに白紙の小切手は渡せない」(マッカーシー下院院内総務)と、対ウクライナ支援に否定的な姿勢を示し始めるなか、ゼレンスキー氏は戦争の真っただなかに自国から出るという危険を犯してでも、米国の支持をつなぎとめる必要があった。


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